それに合わせて「ピース」と言うのは、わが井上順さんの独創かと思うが、Vサイン自体は、西洋の産だ▼デズモンド・モリス著『ジェスチュア』によれば、発明者はベルギーの法律家ラブレー。英語や仏語の「勝利」の第一文字がVであることから、第二次大戦中、ナチス・ドイツへの抵抗を示すサインとして提案、時の英国首相チャーチルらが盛んに使って定着した▼だが実は、掌(てのひら)を他者でなく自分に向ける「裏返しVサイン」の方がずっと起源は古い。時に卑猥(ひわい)なニュアンスも伴うきつい侮辱の表現というから剣呑(けんのん)だ。ゴール直後、観覧席に向け、勝利のVサインのつもりで、うっかり裏返して出し、大トラブルに見舞われた英国の名騎手の悲劇も同書には紹介されている▼こちらは、うっかり旅客機を“裏返し”にしたというのだから危険度はそんな比ではない。全日空機が高度一万メートルで曲技飛行さながら、ほぼ上下逆さまの背面飛行になるトラブルを起こしていた。副操縦士が、機内のドアと方向舵(だ)のスイッチを、うっかり間違えたためらしい▼その後の機体姿勢の回復も「偶然うまくいっただけ」(国交省)とは、大事故寸前だったということか。乗客にすれば、それこそ裏返しVサインでも突きつけたい心境だろう▼管制官の居眠りなど、このごろ、やけに空の不祥事が多い。“背信飛行”は二度と御免である。