ロシアのプーチン首相が、来年三月の大統領選への立候補を表明した。返り咲きは確実とされるが、ソ連崩壊二十年の節目に演じられた擁立劇は「ロシア流民主主義」の異質性を浮き彫りにした。
旧ソ連共産党大会を思い起こす光景だった。二十四日の与党「統一ロシア」党大会で、メドベージェフ大統領がプーチン首相を大統領候補に推薦すると、万雷の拍手と歓声が長く続いた。プーチン氏はメドベージェフ氏を首相に起用すると明言し、たすき掛けで表向きは双頭政権を維持する姿勢も明確になった。
次期大統領の任期は憲法改正で四年から六年に延長され、最長で二〇二四年まで二期十二年務めることもできる。プーチン後に再びメドベージェフ氏を立て二〇三六年まで権力維持を図る案まで与党周辺で検討されているようだ。これでは権力乱用防止を目的とした憲法上の多選禁止規定が骨抜きとなる。強い懸念を表明する。
プーチン氏が予想に反し、現時点での再出馬表明に踏み切ったのは統一ロシアの支持率低下がある。同党は国民的基盤を欠いたエリート党といわれ「ソ連共産党の最悪の形態だ」(ゴルバチョフ元ソ連大統領)と批判される。
焦るクレムリンは支持基盤を拡大しようと翼賛組織「全ロシア国民戦線」を立ち上げたが、市民の関心は低調だ。
リベラル勢力囲い込みをもくろみ官製野党の党首に送り込んだ大富豪は、クレムリンの操り人形を演じることを拒絶した。
今後はプーチン氏のカリスマ性を前面に押し出し、マスメディアや行政組織などを総動員した選挙運動を展開し、開票では票の操作の可能性も指摘される。
しかし、ロシアを取り巻く状況は、四年前とは異なる。事実上約十一年に及ぶプーチン氏の指導体制は原油価格高騰の追い風で経済成長を実現したが、官僚組織は肥大化の一途をたどり、汚職増大は底無し沼の様相だ。
ロシアからの資本逃避は昨年三百八十三億ドルにのぼる。旧ソ連のブレジネフ時代とも重なる新たな停滞時代の到来の予感に、社会には不満が鬱積(うっせき)しつつある。
こうした空気を反映し、財政規律派で知られるクドリン副首相兼財務相が反旗を翻し大統領に事実上、解任されるなど、政権内部では内紛の兆しが見えてきた。クレムリン流のシナリオ通り、新たなプーチン長期政権がすんなり実現できるかは、予断を許さない。
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