野田佳彦首相は国連演説で原発の安全性を万全にして今後も有効活用したい考えを示した。福島第一原発の現状を見れば、脱原発と自然エネルギー開発の重要さを訴えるべきではなかったか。
国連本部で二十二日開かれた原子力安全首脳会合で、野田首相は福島第一原発事故への対応と収束の見通しを説明し、「事故のすべてを迅速かつ正確に国際社会に開示する」と述べた。
また「原発の安全性を世界最高水準に高める」と強調し、原子力利用を模索する国々への支援を続けると表明した。トルコやベトナムへの原発と関連技術の輸出交渉を本格的に再開したい意向だと解釈できる。
首相は所信表明演説で「中長期的には原発への依存度を可能な限り引き下げる」と明言したが、国連演説ではそのような表現はなかった。「再生可能エネルギーの開発、利用の拡大を主導する」と述べたが、詳細には触れず、来夏をめどにエネルギー戦略を示すと述べるにとどまった。
首脳会合ではフランスや韓国の大統領が原発推進論を唱えた。国連の潘基文事務総長も議長総括で、各国が安全性を確保しながら原子力利用を進めるべきだと述べた。野田首相は会議の大勢を意識して、脱原発という表現を避けたともいえよう。
だが福島第一の事故による深刻な放射性物質の汚染を考えれば、首相は国連の場で脱原発依存にどう取り組むかをもっと明確に示すべきだった。太陽光、風力、地熱など具体例を挙げて、再生可能エネルギー開発に全力を挙げる姿勢を見せれば、共感する国も多かったのではないか。
野田首相は経済界の意向を受け電力安定供給に比重を移しつつあるようだ。国内向けには原発依存度の低下を約束しながら、国外では原子力ビジネスを続けるというのは整合性がとれるのか。国民への説明が求められる。
菅直人前首相は東海地震の震源想定域に入る中部電力浜岡原発の稼働停止を要請するなど、脱原発への方向性を示した。地震、津波対策が不十分な施設は少なくない。中長期的な脱原発の流れを後退させてはならない。
今夏、首都圏や東北地方で実施された節電では当初目標を大きく上回り前年比21%削減になった。原発の危険と隣り合わせに暮らすより、ライフスタイルを変えても安全がほしいという国民の願いだと受け止めたい。
この記事を印刷する