ギリシャの債務問題が深刻化しています。当面は各国・機関の支援が続く見通しですが、根本解決には至りません。再び金融危機に陥るのでしょうか。
ギリシャに対して国際通貨基金(IMF)や欧州連合(EU)、欧州各国が総額千百億ユーロの支援を決めたのは昨年五月でした。
それを受けて、ギリシャは国内総生産(GDP)比の財政赤字を二〇一一年に7・6%まで引き下げる約束をしましたが、とても達成できそうにない見通しが明らかになりました。そこで支援継続があやしくなって、問題が再燃したのが今回の経緯です。
◆3カ月ごとに訪れる危機
ギリシャ国債が示す長期金利は一時26%にまで跳ね上がりました。日本は1%強ですから、いかに高金利か分かるでしょう。ほとんど破綻レベルと言えます。
支援国・機関はギリシャに財政再建策の徹底を求めてきました。しかし国内の反対運動が激しく、税金を徴収する公務員までがストライキに訴えるありさまです。
先週末になって公務員の一時休職や年金の一部削減など追加緊縮策を打ち出し、ひとまず支援の継続が決まりました。
ギリシャが国債償還期限を迎える三カ月ごとに緊張を強いられてきた金融市場では「最終的に債務不履行は避けられない」という悲観論が有力になっています。
ギリシャは観光以外に有力な産業がないうえ、働く人の四人に一人が公務員といわれるほど公務員天国のお国柄です。オスマントルコの支配に抵抗するため、国民に納税拒否が根付いたといわれ、いまでも気風が残っています。
欧州単一通貨のユーロに加盟した後は、安心感からか財政規律がかえって緩んだ格好でした。
◆浮上した「ユーロ分裂」
本来、財政赤字が積み重なって自国で賄いきれなくなれば、通貨は下落します。通貨下落が警告となって緊縮財政を強いられるので、事態の悪化が止まります。
ところが、ギリシャの場合はユーロ加盟で通貨下落の心配がなくなったために、赤信号が点滅しなかったのです。
ワシントンで開かれた二十カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は欧州債務危機への協調対応で一致しましたが、問題が暴発する懸念も残っています。
たとえば、欧州の銀行は多かれ少なかれギリシャ国債を保有している。ギリシャが債務不履行になると銀行が経営難に陥る。それを見越して「危ない銀行」の株式が売られる。あるいは、資金取引が難しくなって突然、倒産するといった形です。
すでにドル資金の取引が急減する事態に先手を打って、日米欧の中央銀行が年末に向けてドル資金を無制限に供給する方針を打ち出しました。それほど事態は緊急モードに突入しているのです。
根本的な解決策はあるのでしょうか。ギリシャが抜本的に財政を立て直せればいいのですが、そのためにどうするか。
もっとも過激な案はギリシャをユーロから追放する。ドイツでは「なぜ私たちの税金をギリシャ救済に使うのか」という反発が強い。ギリシャがユーロを脱退すれば、新たな通貨が猛烈に下落するので、強制的に財政再建せざるをえない。そんな議論です。
逆に、ドイツでは「ギリシャが出ないなら、私たちがユーロを出る」という議論もあります。財政が健全で経済力のある国々が別のグループを形成する案です。マルクが復活し、こちらは価値が上昇するでしょう。
これはたしかに抜本策の一つではありますが、短期的には混乱が避けられません。ギリシャは生活水準が大幅に切り下がり、ドイツも輸出急減で痛みを伴います。
なぜ欧州が統合の歩みを続けてきたかといえば、二度の大戦を経て「けっして戦争と分断の大陸にしない」という目標があったからです。戦後の欧州は不戦の誓いを胸に、ドイツとフランス、英国を軸にして一歩ずつ妥協と合意を積み重ねてきました。
その最大の成果が単一通貨ユーロの導入でした。ところが、いま「ユーロ導入は正しかったか」という根本的な問いが投げかけられています。
◆債務危機の拡大を防げ
放蕩(ほうとう)息子をユーロに加えたときに実は、具合が悪くなったときのユーロ脱退手順も含めて問題点を詰めておくべきでした。それが手遅れならば「封じ込め」を次善の策とする以外になさそうです。
金融危機が世界に伝染するシナリオだけは二十カ国の責任で避けねばなりません。
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