駅のホームは急流に架かる“欄干のない橋”に例えられるほど危ない。転落したり、電車に接触したりする事故が後を絶たない。鉄道会社は安全柵づくりを急ぎ、安心な交通環境を整えてほしい。
今年一月、東京都内のJR山手線目白駅で全盲の男性がホームから落ち、電車にはねられて亡くなった。彼の死は国を動かした。
国土交通省と鉄道会社は障害者や高齢者の安全対策を話し合い、ホームドアや点字ブロックの設置の目安を決めた。ホームでの事故の八割は一日に一万人以上が利用する大きな駅で起きている。そこに着目した。
一日の利用者が一万人以上の駅では、ホームの内側と外側を確かめやすい線状突起のある新しいタイプの点字ブロックをつける。
十万人以上の駅では、ホームドアや可動式ホーム柵を優先的に設ける。費用面や技術面で難しければ点字ブロックを敷設する。
ホームの事故防止対策の目標がはっきり示されたのは前進だ。鉄道会社は対策をどう進めるのか計画の公表を毎年求められる。もはや及び腰では許されない。
日本盲人会連合の二月のアンケートでは、視覚障害者の四割近くがホームから転落した経験があると答えた。いつも命懸けで電車を乗り降りしている実態が浮かんだ。深刻極まりない。
もっとも、駅の利用者の大半は障害者ではない。年齢層も幅広い。事故の被害者にも現役世代の酔客が目立つ。だが、鉄道会社は公共性が高く、どんな利用者も丸ごと守る心構えが大切だ。
それにはホームドアが効果てきめんだ。設置済みのホームでは軒並み事故が減っている。視覚障害者も点字ブロックでは心もとないと感じている。ホームドアの整備に万難を排してほしい。
全国の約九千五百駅でホームドアがあるのは5%ほどにとどまる。十万人以上の約二百四十駅に限っても10%程度にすぎない。膨大な費用や、ホームや車両ドアの構造が足かせとなっている。
とはいえ、安全対策のためなら鉄道会社は自ら身を削る努力が必要だ。国も自治体も資金の手当てや技術の研究開発を強力に後押ししたい。
障害者や高齢者に優しい環境づくりには、周りの気遣いも欠かせない。西武鉄道と地元の埼玉県所沢市は、市内九駅でボランティアの手を借りている。全国に広げたい取り組みだ。身近な支え合いも事故を防ぐ大きな力になる。
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