想像してみてほしい。深刻な食中毒を引き起こしたばかりのレストランの経営者が、同業者の会合で「食品衛生の高い技術を提供する」と言ったら、一体、どう思われるか▼しでかしたのは、はるかに重大な失敗なのだから、野田首相の方が一層、奇異だろう。国連の会合での演説で「原子力利用を模索する国々の関心に応える」と述べ、原発輸出継続の意向を表明した▼脱原発、原発維持のどちら側ともつかず、なるほど“ノーサイド首相”らしくもあった野田さんだが、最近、少し維持サイドに傾く気配。米紙に対しても、定検中の原発について「来年夏に向け再稼働できるものはさせる」と▼地元には、「安全性の確保とか国が責任を持つといった説明」をするというが「絶対安全」などあり得ぬこと、あの原発事故で国民は百も承知。首相はどうやって、その、ないものに「責任を持つ」のか▼無論、「絶対安全」がないのは原発に限らない。風力発電の風車だって絶対脱落しないとはいえぬ。だから安全云々(うんぬん)より、むしろ最悪の事故が起きた場合に想定される被害をこそ考えるべきだ。そして、ほぼ無限大に及ぶような被害は、原発以外の発電所事故なら考えられない▼例えば今、この国では新聞にこんな料理本の広告がごく普通に載っている。「肉も野菜も魚もこれで安心 『放射能を落とす下ごしらえ』」…。