パレスチナ自治政府が国連加盟申請の方針だ。米国は拒否権を使って阻もうとしている。それはもはや歴史の潮流でもある最近のアラブの変化に目を閉ざすものであり、中東和平を遠ざけるだけだ。
パレスチナの最初の「国家」への名乗りは、第四次中東戦争の翌年、一九七四年だった。その年、ミニ・パレスチナ国家構想を唱えて国連オブザーバー資格を得た。
覚えていらっしゃる方もいるだろう。国連総会にパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長(当時)が、右手に平和の象徴オリーブの枝を、腰には空の短銃ホルスターを下げて登壇、こう述べた。
「皆さん、どうか私の手からオリーブの枝を落とさせないでください」
議長の演説は喝采を浴び、それなりの成果を上げたが、それで失地回復のできるわけもなく、イスラエルによる占領は続く。オスロ合意を経て自治区が誕生したものの、今世紀に入りイスラエルの右派主導政権により、ユダヤ人入植地の建設は続き「領土」はどんどん侵食されていた。国家建設への希望は砕けそうになっていた。
チュニジアに始まった「アラブの春」は、民衆が政治を動かせる可能性を知らせた。パレスチナでは若者のデモが動きの鈍い自治政府を国連加盟申請へと押し出す。
イスラエルは警戒し、強力なイスラエル・ロビーを国内に抱える米政権は拒否権行使を予定している。パレスチナのイスラム原理主義勢力ハマスが公式にはイスラエルを国家承認していないという理由もある。だが、そもそもの原因はイスラエルの占領強化にある。
アラブで広がる民衆革命は独裁者を倒すと同時に、イスラエルによるアラブの土地の占領という不公平、不正義への人々の怒りの思いを解き放ちつつある。国際テロ組織アルカイダへの共感もそのあたりにある。
その意味で、中東和平の実現は地域の安定にも民主化にも寄与する可能性がある。イスラエルは入植を直ちにやめ、アラブ側はイスラエル敵視を減らす努力をせねばならない。仲介者米国は現実を直視し、未来を向きイスラエル、パレスチナ二国家共存という公平と正義の実現へ動いてほしい。日本も後押しすべきだ。
歴史の好機は巡ってきた。オリーブを落とすのなら米国にも世界にも大きな損失となる。
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