HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 18 Sep 2011 20:05:26 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 「日本化」を吹き飛ばせ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 「日本化」を吹き飛ばせ

 「日本化」(ジャパナイゼーション)という言葉をよく見かけます。経済的に好ましくないモデルという意味ですが、いつまでも使われたくないですね。

 「政権運営とは、雪の坂道を雪だるまを押し上げていくようなもの。今は雪だるまが転がり落ちており、内輪もめしている余裕はない。同志の結束が不可欠だ」

 野田佳彦首相が民主党代表に選ばれた直後の発言です。これを聞いて思い出した光景があります。

 三十六年前、パリ郊外で開かれた第二次大戦後初の先進六カ国首脳会議(ランブイエ・サミット)を取材したときのことです。

◆「シシュフォスの岩」

 石油ショック、インフレ、財政赤字、雇用不安など先進資本主義諸国を襲った危機をめぐってフォード米大統領、ジスカールデスタン仏大統領、三木武夫首相ら当時の首脳六人が中世の古城に二泊三日の合宿をして「インフレなき成長」「不況からの脱出」へと結束を確認するランブイエ宣言を発表しました。その姿はギリシャ神話の「シシュフォスの岩」を彷彿(ほうふつ)させたので、先進国の共存共苦をコリントスの王シシュフォスになぞらえて論評しました。

 狡猾(こうかつ)さゆえに神ゼウスの怒りを買ったシシュフォスは岩を山頂に押し上げる仕事を命じられます。だが、あと一歩で山頂という瞬間に岩が転げ落ち、彼は岩を押し上げる永久運動を強いられます。

 当時は六カ国で世界の国民総生産(GNP)、貿易量の過半数を占めていたので、シシュフォスの岩のように苦しくとも先進国の協調で経済を押し上げる以外に世界繁栄の展望は開けませんでした。いまも協調の必要性は変わっていませんが、冷戦終結や中国など新興諸国の急速な経済発展に伴い世界の様相は一変しました。

◆ ドライフラワーの菊

 欧米、日本など工業先進国が一様に財政難、金融不安、株安、失業、少子高齢化など経済成長の阻害要因に頭を痛めています。国債の格付けでは「トリプルAなき世界」といわれるように経済運営の優等生は、もはや存在しません。

 旧ソ連の崩壊、米国の衰退、アラブの民主化革命を予測したフランスの歴史・人類学者エマニュエル・トッド氏は先に青山学院大での講演で「欧州連合(EU)内の独仏の社会的雰囲気の違いなどからユーロは、いずれ崩壊するだろう」との予言を披露しました。

 欧米諸国が懸念する「日本化」とは、バブル崩壊後の日本のように経済不安が長期化するのではないかという点にあります。

 一九九〇年代半ば、米国の学者が世界を展望してこう言ったそうです。「舞い上がる鷲(わし)」「ほえる竜」「さまよえる熊」「しおれる菊」。当時の米国、中国、ロシアそして日本を評したものですが、現時点ではどう表現すべきでしょうか。さしずめ「羽を傷めた内向きな鷲」「にらみを利かす竜」「冬眠から覚めかかっている熊」「ドライフラワーの菊」とでもいうところでしょうか。

 乾き切った菊を再度みずみずしい菊に蘇生することが欧米の「日本化」懸念を払拭(ふっしょく)することにもつながるに違いありません。内閣総理大臣が短期間で代わるなど日本政治の混迷ぶりに「期待しても無理かもしれない」と外国人の間で広がるあきらめムードが「日本化」懸念の背景にあることを私たちは忘れてはなりません。

 菅直人前首相が退陣表明したとき米紙ワシントン・ポストは「日本政治は回転木馬」と論評、「より優れたシステムへ移行できる機会か」、それとも「衰退への兆候なのか」、その答えを出せるのは日本だけだ、と指摘しました。

 来年は二つの「二〇一二年問題」に直面します。国内では団塊世代が六十五歳のリタイア期を迎え労働市場の活性化と高齢者対策という両面の対策が急務です。

 国際的には米国、ロシア、フランス、韓国で大統領選があり、中国でも指導者交代が予定されるなど、国際政治が大きく動きます。こうした内外の激動に日本の政治が的確に対応できるのか。

 見飽きた年中行事の首相交代劇から「しっかりした日本」づくりへと舵(かじ)を取ってほしい−それが現在の政治に対する多くの国民の率直な願いではないでしょうか。

 東日本大震災で日本人が見せた「思いやり」「冷静さ」「助け合い」「秩序」「我慢強さ」などは世界から称賛を浴びました。

◆ 日本の強みを政治に

 従来、日本の強みとされる自動車、家電製品などのモノづくりに加えてサービス業における「もてなしの心」も中国など新興国から手本にされています。私たちが持つ強みを現実政治に反映させて欧米の「日本化」懸念を吹き飛ばそうではありませんか。

 

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