HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19882 Content-Type: text/html ETag: "871691-483f-776a3480" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 19 Sep 2011 01:21:43 GMT Date: Mon, 19 Sep 2011 01:21:38 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年9月19日(月)付

印刷

 「暑さ寒さも彼岸まで」の彼岸が今年も待ち遠しい。きのうは秋雨の話を書いたが、関東などは厳しい残暑が居座った。私感だが、残暑は真昼よりも西日がこたえる。斜光を浴びる人々も風景も、夏の疲れを引きずって見える▼それでも日が落ちると、草むらで秋の虫たちが弦を弾く。リーリーと奏でるのはコオロギだろう。ゆっくりだが、「もののあはれ」の季節へと自然の舞台は巡っている▼鳴く虫たちは古来、人に親しい存在だったらしい。〈七月 野に在(あ)り/八月 宇(のき)に在り/九月 戸(と)に在り/十月 蟋蟀(しっしゅつ) 我が牀下(しょうか)に入る〉と中国最古の詩集「詩経」にある。秋が深まるにつれて野から軒下へ、戸口へ、そして寝床にもぐり込んでくる、と▼日本では、コオロギの鳴き声は「針刺せ、糸刺せ、つづれ刺せ」と聞きなされてきた。現代人にはとてもそうは聞こえないが、冬着の繕いを促し、寒い季節に備えよと知らせたかと思えば、秋の夜の「あはれ」はいっそう深い▼虫たちを写真で網羅した近刊『バッタ・コオロギ・キリギリス生態図鑑』には、各種のバッタ、コオロギの顔がずらりと並ぶ。〈こほろぎのこの一徹の貌(かお)を見よ〉山口青邨。黒光りする顔々は、人間よりはるかに知恵者に見えて恐れ多い▼撮影者の一人伊藤ふくおさん(64)によれば、これまでは当たり前にいたのに、近年は見つけづらくなった種類もあるそうだ。蝉(せみ)の合唱から、虫たちの弦楽へ。普通のことが普通にある尊さにひとしお感じ入る、今年の秋だ。

PR情報