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万物をやわらかく潤すのが春雨なら、今ごろの秋雨は夏のほてりを冷ますしめやかなイメージか。言葉としては「春雨」の方が古くからあったという。国語学者の故金田一春彦さんによれば、秋雨は春雨に対する言葉として江戸の中頃に生まれたそうだ▼だが、時の文人たちはこの新語をだいぶ苦々しく感じたらしい。当時の書物には「春雨に対して秋さめと心得給(たま)ふは大(おおい)に非也(ひなり)」などと「日本語の乱れ」を嘆くくだりもあるという。金田一さんの著作からの受け売りである▼そんな秋の長雨の時期に、列島は入りつつあるようだ。北に前線、南には台風が二つ、予報には傘マークが並ぶ。しめやかな雨から程遠い、大雨への警戒が各地で続いている▼先々週の台風は、爪痕の深い紀伊半島に土砂ダムを残していった。追い打ちの雨による決壊も心配される。今回、鈍足迷走の15号に南から湿った空気が流れ込む形は、先の気象図に似ているという。事なきをただ願うばかりである▼大きい川は台風が過ぎて青空になっても水位が上がり続けるそうだ。防災に携わる人は百も承知だろうが、人知を超えて来るのが災害というもの。昨日までの無事が今日の安全を保証してくれないことを、尊い犠牲とともに私たちは刻んだ▼地震に比べ、死者が数千、数百人という台風被害は近年にはない。これを、大きな作戦では勝利しながら局地戦で手痛い負けを喫していると評した人もいる。もう、これ以上の犠牲者を出さずに、台風を去らせたい。