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地域の子どもが学ぶのに一番適した教科書はどれか。大事な選択が、大人たちの対立で収拾がつかなくなっている。沖縄県八重山地区の中学校で来春から使う公民の教科書選びのことだ。[記事全文]
群馬県の八ツ場ダムをめぐって、国土交通省の関東地方整備局が本体着工に道を開く検証結果をまとめた。治水や利水で、八ツ場ダム建設を含む対策が、ダムを造らない代替案より安く済むという結果だった。[記事全文]
地域の子どもが学ぶのに一番適した教科書はどれか。大事な選択が、大人たちの対立で収拾がつかなくなっている。
沖縄県八重山地区の中学校で来春から使う公民の教科書選びのことだ。この地区の3市町でつくる八重山採択地区協議会は8月、「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社版を選び、各教育委員会に答申した。
協議会長である石垣市教育長の主導で、事前に協議会委員の顔ぶれが入れ替えられた。教員が務める調査員の育鵬社版への評価は高くなかったが、その評価に関係なく選べる仕組みに変えた。そうした動きを経て、育鵬社版が選定された。
この結論を受け、石垣市と与那国町の教委は沖縄で初めて育鵬社版を採択した。しかし、竹富町教委は全会一致で不採択とした。
事態を受けて、県教委は3市町の全教育委員による協議を求めた。その場での多数決で、委員たちは育鵬社版を撤回し、東京書籍版にすると決定した。
今度は文部科学省が、この協議について「整っていない」と待ったをかけた。そのうえで八重山地区で同一教科書の採択を急ぐよう、求めている。
教科書を採択する権限は市町村の教育委員会にある。ただし複数の市町村で採択地区を作っている場合、その地域内では同じ教科書を採択すると、別の法律に書いてある。では、一緒に教科書を選ぶ市や町で、考えが食い違ったとき、どう解決するか。そのルールはない――。
そんな制度の矛盾が、問題の根っこにはある。事態を収めるのは容易ではなかろう。
今回の混乱を見るにつけ、複数の自治体を束ねる広域採択制度は、見直す時機ではないか。市町村ごとに決める形が、とりあえずはすっきりする。
そもそも、子どもや地域の事情をよく知るのは誰だろう。
教師が研究を重ねて、保護者の意見も交えながら学校ごとに教科書を丁寧に選び、子どもに合った学びを創る。学校や教師の責任は重くなるが、それが目指すべき方向ではないか。
橋本内閣時代の97年、「将来的に学校単位の採択」を掲げ、「多くの教員の意向が反映されるよう、採択地区の小規模化」をうたった閣議決定がなされたことも、思い出したい。
「つくる会」系の教科書は、歴史と公民を採択した横浜市などでも、賛否両論を引き起こしている。個性の強い教科書だけに、教育現場の声をないがしろにして上から押しつけるような決め方は、ふさわしくない。
群馬県の八ツ場ダムをめぐって、国土交通省の関東地方整備局が本体着工に道を開く検証結果をまとめた。治水や利水で、八ツ場ダム建設を含む対策が、ダムを造らない代替案より安く済むという結果だった。
政府は全国83のダム事業の必要性について個別に検証作業を進めており、八ツ場ダムもその一つ。地方整備局などの事業主体を中心に、関係自治体も加わった「検討の場」で総合評価をする。地元住民らの意見も聞いて、国交省に報告する。国交相は、有識者会議の意見を踏まえて各事業の可否を判断する、という仕組みだ。
すでに15のダムについて判断が示された。事業継続が10、中止は5という内訳だが、いずれも検討の場が出した結論の通りだ。八ツ場ダムでは、建設予定地の群馬県長野原町と群馬県をはじめ、ダム下流の1都4県も早期着工を求めており、今回の総合評価に同意した。
しかし、疑問が解消されたとは言い難い。ダムを含む治水対策の前提となる河川の流量の設定が過大ではないか。水道水や工業用水は、人口減少・低成長時代でも計画通り必要なのか。八ツ場ダムは「始めると止められない」公共事業の象徴として国民の関心も高い。専門知識が乏しい人にもわかりやすく、議論を尽くす必要がある。
そのために、建設に反対する市民団体や住民、有識者を交え、官民の関係者が一堂に会して集中討議することを提案したい。検討の場で公表された資料のほか、8月には東京地裁の判決を受け、洪水時の最大流量を算出する際の基礎図面も公開された。こうした資料の分析や評価を中心に議論してほしい。
討議は期間を区切って集中的に行うべきだ。八ツ場ダムについては09年秋、民主党政権が公約に従って「中止」を打ち出し、10年秋には「予断なく再検証する」と軌道修正するなど、混乱が続いた。そのたびにダム建設予定地の住民らは振り回され、将来の展望を描きにくくなっているからだ。
関東整備局の検証によると、最も安上がりとした八ツ場ダム建設案でも、治水で今後さらに8300億円、利水にも600億円が必要という。3千億円超が投じられた八ツ場ダムの残りの事業費1300億円のほか、遊水地の新設や河川の改修などを伴うためだ。
財政難は深刻だ。災害対策を施設の整備だけに頼らず、避難態勢の充実といったソフト面で補う道を探るなど、費用対効果を徹底的に検討したい。