鉢呂吉雄経済産業相が原発視察をめぐる一連の失言で引責辞任した。野田内閣は高い支持率で始動したが、国会を開く前から閣僚らの不適切発言が相次いでいる。政権を担う緊張感が足りない。
問題となったのは、鉢呂氏が視察した東京電力福島第一原発周辺の市町村を記者会見で「死の町だった」と表現したこと、視察後、防災服を記者にすりつけるようにして「放射能をうつしてやる」という趣旨の発言をしたことだ。
野田佳彦首相は「福島の再生なくして日本の再生はありえない」と、原発事故の被災者に寄り添う姿勢を示していたではないか。
鉢呂氏の言動は、故郷を離れざるを得なかった被災者への配慮を欠き、原発事故の収束に全力を挙げるべき閣僚として不適切だ。
辞任は当然だが、首相の任命責任も問われるべきだ。人材の見極めは確かだったのか。適材適所といいながら、党内融和人事の弊害が出たのなら見過ごせない。
後任の枝野幸男氏は、菅前内閣の官房長官として原発事故対応に当たってきた。野田内閣でも気を引き締めて、事故収束と福島を含む東北復興に努めてほしい。
経産相交代を引くまでもなく、この政権は緊張感を欠いている。
一川保夫防衛相は「安全保障に関しては素人だが、これが本当のシビリアンコントロール(文民統制)だ」と発言した。文民統制をはき違えている。国民の生命と財産を守る覚悟が本当にあるのか。
民主党の平野博文国会対策委員長は、臨時国会会期を四日間とする理由に「内閣が不完全な状態では十分な国会答弁ができない」ことを挙げた。完全な内閣はいつできるのか。国会軽視も甚だしい。
野田内閣発足後初めて与野党対決型の大型地方選となった岩手県知事選では、民主党推薦の達増拓也知事が再選された。四月の統一地方選で敗北した党執行部は胸をなで下ろしていることだろう。
しかし岩手大の丸山仁教授(政治学)は「(小沢一郎元代表の地元という)民主党の厚い支持基盤に加え、復興計画実施の先頭に立つ現職知事に一票を投じるのは当然」と突き放す。野田内閣の仕事が評価されたわけではない。
二〇一一年度第三次補正予算編成をはじめ復興対策は待ったなしだ。熟議を経て結論を出すべき国内外の難題も山積する。政権全体が弛緩(しかん)し、野党との論戦を避ける気分がまん延しては、国民のための仕事などできるわけがない。
この記事を印刷する