田植えができなかった田んぼは、びっしりと雑草に覆われていた。福島第一原発から半径二十キロの警戒区域をわずかに外れた福島県南相馬市の田んぼで、トラクターに乗ってススキを刈り取っている男性(51)に声を掛けた▼耳障りな音は、携帯電話の着信音と思っていると、男性がポケットから取り出したのは線量計。〇・三マイクロシーベルトで警告音が鳴るようにセットした機器はずっと鳴り続けていた▼稲を作付けした福島、郡山市内より測定値が低い地域も多いが、南相馬市のすべての農家は今春、田植えを見合わせた。来年も田植えができるか見通しは立たない。「米農家が米を買うのは屈辱以上のものです」。静かな口調の中に怒りがにじむ▼津波被害を受けた市内の農地保有者のうち、半数以上が農地を手放したい、他の利用方法を考えたいと離農を検討しているという。いつになれば、豊かな大地を取り戻せるのか。将来が見えない苦悩が伝わる▼稲の代わりに植えられた多くのヒマワリが秋の風に揺れていた。震災からきょうで半年を迎える。新聞やテレビは節目として伝えるが、被災地にとっては、喪の途上にすぎない▼その前日の夜、鉢呂吉雄経済産業相が辞任した。子どもの悪ふざけのような言動が事実なら辞任はやむを得ないが、将来の「原発ゼロ」を明言した人だけに、喜んでいる人たちの顔も浮かんでしまう。