HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 12 Sep 2011 01:06:04 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:米同時テロ10年を考える 解きたい「恐怖」の呪縛:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

米同時テロ10年を考える 解きたい「恐怖」の呪縛

 拭えぬ恐怖心を植え付けて人を支配するのが、テロの原義とされます。米中枢同時テロから十年。国際社会はその呪縛を解くことができるでしょうか。

 米国の中枢に旅客機で突入する−。中世的な価値観への回帰を迫る狭隘(きょうあい)なイスラム原理主義組織アルカイダの凶行は、人々の心に恐怖と怒りを刻みこみました。

 瞬時に亡くなった約三千人の犠牲者の無念、遺族の悲痛は察して余りあります。なお懸念されるテロ犯罪阻止のため、国際社会が協力して万全を期す必要があることは、論をまちません。

◆正当性問われた戦争

 その上で、あらためて問わなければなりません。戦争という選択に正当性はあったのか、と。

 十年の歳月は、すでに第一次大戦と第二次大戦を合わせた長さに及んでいます。

 軍事費一兆三千億ドル(約百兆円)は、朝鮮、ベトナム、湾岸の三つの戦争の合計戦費を凌(しの)ぐとの試算もあります。精密誘導兵器を駆使した「新しい戦争」と言われながら、米兵犠牲者はアフガニスタン、イラク二つの戦争で六千人を超えています。

 アフガン戦争の段階まで、米国は国際社会の共感を繋(つな)ぎ留めていました。しかし、その後、宗教国家とも見紛(みまご)う単独主義的行動でイラク戦争に突入し、世界の米国観は一変しました。

 明確な安保理決議を得ずに踏み切った武力行使。主たる根拠だった大量破壊兵器情報が虚偽だった事実はあらためて指摘されなければならないでしょう。米政府調査委員会は、二〇〇四年に大量破壊兵器は存在しなかったと断定し、パウエル元国務長官は、結果的に虚偽証言となった国連演説を外交官としての「汚点」と述べ事実上謝罪しました。

◆日本でも必要な検証

 戦闘終了後、治安維持活動に派兵したオランダでは、独立調査委員会が、武力介入に国際法上の根拠はなかった、との報告書を出しています。英国でも近く検証結果が発表される予定です。日本でも検証が行われてしかるべきです。

 ブッシュ氏は、退任後も回顧録で、イラクによる度重なる安保理決議無視や、当時として信じるに足る情報だったことを根拠に判断の妥当性を主張していますが、説得力があると言えるでしょうか。

 むしろ、注目すべき擁護論はナチスによるホロコースト生存者で、ノーベル平和賞受賞者のエリー・ウィーゼル氏によるイラク戦争支持表明でしょう。ウィーゼル氏はフセイン体制をナチスになぞらえ、ブッシュ氏に「邪悪に対して行動する道義上の責務」を説いたとされます。米国人の心に響く言葉でしょう。

 しかし、同様の論理を展開して前回の大統領選挙に臨んだマケイン上院議員が、有権者の支持を得られなかった事実も忘れてはなりません。

 冷戦後の新たな秩序を探る試みは、米一極体制から、米中の二極体制、他の新興国を含めた多極体制、さらには無極体制まで、様々(さまざま)な議論を呼びました。

 この間、対立するものとして語られてきたイスラムと西欧の関係で新たな秩序の芽が芽生えたとすれば、中東の民主化運動です。ブッシュ政権が、半ば後付けで強調し始めた米国主導による民主化とは別次元で始まった民衆革命です。アルカイダとも、直接の接点はありません。

 米国がなし得ず、テロ組織が忌避していた民主化が、中東内部から発生したのは皮肉というほかはありません。暴力に訴えずとも、平和的に自らの要求を実現できる。恐怖の呪縛を解いたのは民衆自身でした。

 「イスラムとの対話」を唱えるオバマ政権にとって好機のはずですが、ここへきて中東での影響力低下は深刻です。パレスチナ国家承認をめぐる国連決議問題に関する米国の孤立感は象徴的です。民主化を唱えつつ石油権益がからみ、独裁政権を容認してきたジレンマを直視する時でしょう。

 戦費負担にも起因する米国の経済的停滞、イスラム排斥を背景とした欧州の右傾化は、世界恐慌に至る第一次大戦後の世相を想起させ、新たな西洋の没落説もささやかれています。

◆暗示かかりやすい知識人

 「人はなぜ戦争をするのか」をテーマに一九三〇年代、国際連盟の委託で心理学者フロイトと書簡を交わした物理学者アインシュタインは、人間性に潜む憎悪と破壊性を制御することの難しさを指摘しながら、大衆より知識人の方が暗示にかかりやすい、と警告を発しています。

 戦争に至る判断に、テロという恐怖への過剰反応はなかったか。ブッシュ氏自身も回顧録で記しているように、歴史の審判に委ねるほかありません。

 

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