HTTP/1.1 200 OK Date: Sat, 10 Sep 2011 21:05:35 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:大震災から半年 「人間復興」支えよう:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

大震災から半年 「人間復興」支えよう

 3・11を境に私たち日本人は確実に変わり始めた。脳裏に刻まれた大津波、直面する放射能の恐怖。何をなすべきか。何ができるのか。自問し続けたい。

 海辺の被災地にはがれきの山が残り、解体を待つ建物もまだ多い。浸水地域も、福島第一原発の周辺も、あの日のままだ。「きょう、あすの生活ができるか…」。被災者の言葉が身に刺さってくる。復興、復興とばかり前のめりになっていなかったか、取材活動への戒めに聞こえた。

 生活支援が第一だ。地元紙は被災者に寄り添う紙面を作り続けている。「震災はまだ現在進行中」と河北新報社(仙台市)の一力雅彦社長は語る。「当初は衣・食・住、今は医・職・住を支えたい。時間はかかるだろうが、心の復興は大事な問題です」と話す。新聞人として私たちも心がけよう。

 死者・行方不明約二万人、避難生活を強いられる人は今も八万人を超える。収束できない原発事故で、被害の長期化は避けられない。それでも被災地を訪ねると、不自由に耐えている人たち、くじけずに再建を目指して頑張っている人たちに必ず出会う。あちこちに掲げられる「私たちは負けない!」「がんばろう!」の文字が胸を打つ。

 「私たちは助け合う」。震災直後の社説で、そう呼び掛けた。助け合い、支え合いは、その後の報道の伝える通りだ。

◆心落ち着かす「傾聴」

 寝たきりの病床で描いたイラスト入りシャツをネット販売し、売上金を寄付する重度障害者がいる。被災中学生に「古里の刻々の立ち直り」を撮影してもらい、巡回写真展を続ける団体がある。

 東北三県に入ったボランティアは延べ七十万人、義援金は総額三千億円を超える。3・11以降、節電の励行もあって、国民の多くは当たり前だったこれまでの生活を見つめ直している。これからもそれぞれが「できること」を積み重ねていきたい。

 避難所や仮設住宅では被災者の話を聞く「傾聴ボランティア」が活躍している。人は恐ろしい体験や抱える不安を、誰かに話すことによって心を落ち着かせ、気持ちを整理できる。聞き手は黙って耳を傾けるだけで否定も助言もせず、話し手の言葉の奥にあるものに寄り添う。

 「人間の最大の欲求は話を聞いてもらうこと」。仮設住宅の集会所でお茶会を開いている仙台傾聴の会代表の森山英子さん(62)は話す。寡黙な東北人が多いものの、「もう少しいてほしい」と言われることもしばしばで、一体感の共有が必要と痛感したという。

 「話を聞いてくれてありがとう」の言葉がうれしい、と森山さん。「会が楽しみ」という人も増え、続けていけば少しずつ心を開いてもらえると信じる。心の問題は半年後ぐらいから現れることも多い。大切な役割を担う傾聴ボランティアが増えてほしい。

 岩手県は復興に向けた基本方針に二つの原則を掲げている。一つは、被災者の人間らしい暮らし、学び、仕事を確保し、一人一人の幸福追求権を保障すること。もう一つは、犠牲者の故郷への思いを継承すること。まさに人間性の復興を志向している。

 「人間復興」という言葉は、関東大震災の直後にも叫ばれた。生活、生業、コミュニティーなどを重視した復興の理念で、憲法第一三条「人間の尊厳と幸福追求権の保障」、第二五条の「生存権と基本的人権の保障」と通じ合う。阪神大震災後も着目されたが、道路や建物のハコもの復興が優先された。神戸空港の建設や超高層化の土地区画整理と市街地再開発は、決して被災者の生活再建につながったとはいえない。

◆便乗型は「本末転倒」

 愛知大の宮入興一大学院長(地方財政学)は、政府が再び阪神大震災で失敗した「創造的復興」を掲げたことを「またぞろ人間復興とは対極の理念を用いている」と憂慮する。「震災をてこにとか、踏み台にとかいう議論は、復興を口実にした開発・成長優先であり、本末転倒だ」とさえ言う。確かに、こうした“便乗型”は、上から見た復興にもなりかねない。

 巨大地震、大津波、原発事故、風評被害という未曽有の複合災害が起きて、まだ半年。小さくとも被災者一人一人の幸せを見つけ、支えることを忘れてはならない。

 

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