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天声人語

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2011年9月11日(日)付

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 その少年の死は今も忘れがたい。イラク戦争の始まった2003年、取材に入ったバグダッドでのことだ。14歳ながら病弱な父親に代わって働き、幼いきょうだいを養っていた。荷車でガソリンを配達中、米軍車両を狙った爆発に巻き込まれた▼ガソリンは火の玉となって少年を包んだという。「アメリカに殺されたようなものだ」。葬儀の日に訪ねると、身内は口々に米国への恨みを言った。痛ましさとともに、憎悪の種がまた一粒まかれたとの思いに心は沈んだ▼超大国を狙った9・11テロからきょうで10年になる。あのとき世界を戦慄(せんりつ)させたのは、一体どれほどの憎悪が、かくも激しい破壊を引き起こしたのか、という恐怖だったろう。脅威は今、広まりこそすれ解けてはいない▼テロの直後、ニューヨーク大の教授が「社会が自由や寛容を失ったら、それこそテロリストを勝利させることになる」と警鐘を鳴らしていた。だが愛国心はあおられ、不寛容は加速し、イスラムへの敵意は尖(とが)っていった▼ブッシュ政権は「対テロ戦争」の正義を唱えた。しかし正義の対岸には悪ではなく、別の正義があるばかりだった。そして憎悪は増殖し、より多様化したテロの脅威に世界はいらだち、内向きに閉じて身構える▼きょう世界で湧く追悼の念は、テロ犠牲者だけでなく、戦場の国々の、おびただしい無辜(むこ)の死者にも捧げられるべきだろう。テロ許すまじ。私たちの決意は、いかなる理不尽な死も許さない思いと一心同体のはずである。

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