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2011年9月11日(日)付

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東日本大震災から半年―復興へ、熟議を興すとき

 大震災から半年が経った。

 復興へと少しずつ歩み始めた被災地も、支援をしてきた多くの市民もいま、政治のありようを嘆いているだろう。

 鉢呂経済産業相がきのう、辞任した。野田首相とともに福島の被災地を訪れた後の一連の言動が理由だ。新政権は早くもふらついている。

 きょうは震災で延期されていた地方選のうち、岩手県知事選など三つの首長選、10の議会選挙の投開票もある。被害が大きかったところほど、選挙戦は自粛の空気に覆われた。

 「被災者はそれどころじゃないんだ。連呼はやめろ」と言われたある市議は、「議員に何ができるのか」と自問する。頼みの地縁人脈は断ち切られ、後援会もばらばらになった。

 地方自治の立て直しは大きな課題だ。役場の機能は元には戻っていない。震災後、地方議会の存在感は薄かった。

 けれど仮設の集会所で、残った公民館で、人々は対立し、激論し、相談をしている。自治の営みはそこから始まっている。

■車座の議論から

 宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区。あの日まで、古い漁港のまちに住宅が立ち並んでいた。

 家々をなぎ倒した波は、仙台平野を内陸へと数キロも進んだ。地区の人口7千のうち、1割近くが犠牲になった。住宅地の地盤沈下も起きた。

 ひと月後、避難所の体育館で車座の相談が始まった。

 「人のつながりが消えていいのか」と危機感を持ったのは花屋の店主、伊藤喜光さんらだ。結論は「元の市街地は公園にして、まちごと内陸部に移す」。市に提案書を持参した。

 今野義正さんや地元の建築家が加わったグループは、異なる提言をした。「浸水した区域に何カ所か人工地盤を作り、その上に集落を再建すればいい」

 子育て世代の思いは、より深刻だった。閖上小・中学校は1階が水没。惨状を目撃し、いまも水たまりが怖いという小学生がいる。「二度とあんな思いをさせぬよう、まちも学校も絶対安心できる場所に」。PTAの会合が繰り返しもたれた。

 名取市は、有識者と住民代表からなる会議で復興計画を話し合ってきた。8月に示した素案では閖上は集団移転ではなく現地再建。防潮堤や地盤かさ上げで安全策を図り、土地区画整理を進めるとした。

 9月に入り、市が住民の意見を聴く地域懇談会が始まった。話し合いはなおも続く。

 沿岸の市町村で復興計画づくりが進みつつある。三陸地方では高台移転と漁港再生が焦点になる。住民の提案も盛んだ。

 自治体が頭を悩ませるのが、不確かな条件が多いこと。防潮堤の高さ次第で津波の際の浸水想定区域は違ってくるが、県の整備方針はなかなか定まらなかった。国の財政支援はどれくらいか、水没地域買い上げの話はどうなったのか――。

■国と地方の関係は

 岩手県陸前高田市の久保田崇・副市長は「各省に問い合わせても、検討中としか返ってこない」。内閣府からの出向だが、立場が逆転してみて、政府の決定の遅さがよくわかる。財務省の影も見え隠れする。

 復興には国の支援が必要だ。だがまちの将来を決めるのに、お伺いを立てねば前へ進めないというのは、どうか。

 市町村は、自分たちのプランをもっと強力に発信する。国は地元が使いやすい制度を整え、権限と財源をつけて任せる。復興への道を、国と地方の関係を見直す機会にすべきだ。

 難題のもう一つが、住民の合意形成をどう図るかだ。

 まちを出てゆこうという人がいる。被災者一人一人は、事情も考えも異なる。それらをみなが出し合い、夢も語り、とことん議論する。専門家の知恵や支援者の力を借り、行政との協働を深めつつ、最後は多くの人が納得できる解を探す。

 そんな住民主体の熟議を、興してゆくしかない。苦しい選択もきっとある。だがそのプロセスに加わること自体が、被災者の再生の一歩になる。

 岩手県大船渡市では、小中学生の意見を聴く「こども復興会議」を開く。行政と住民が協議する場に、未来を担う若い世代がもっと加われないか。宿題の一つだろう。

■政治はつまずくな

 福島第一原発近くの被災地はさらに難しい現実がある。

 高濃度汚染の除去の見通しは立っていない。まちごと避難を強いられ、住民は散り、自治体の存立さえ危機にある。東京電力と国とがより重い責任を負うのは、言うまでもない。

 一方で福島県内では、地域の除染計画や、子どもの健康対策を住民が話し合う動きもある。福島の復興でも、住民自治はカギを握るはずだ。

 あんなにも打ちひしがれていた被災の地で、人々は熟議を重ねている。政治が、これ以上つまずく余裕はないはずだ。

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