「現場」と、組織の「中枢」との意識のズレを、こうも端的にいった言葉はあるまい▼「事件は会議室で起きてんじゃない。現場で起きてんだ!」。十数年前の大ヒット映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』で、主人公青島刑事が叫ぶ台詞(せりふ)。ちょっと流行語のようにもなった▼さて、福島第一原発の事故後、東京電力の当時の社長が政府に、作業員を全面撤退させる意向を示したことがあった、との話は本当だったようだ。退任後、菅前首相が各紙に、さらには枝野前官房長官も読売新聞に、そう明言している▼結局、菅さんが東電本店に乗り込み「撤退などあり得ぬ」と押し切ったが、もし事故原発が放置されていたらと想像すると背筋が凍る。確かに「日本が国家として成り立つかどうかの瀬戸際だった」(前首相)かもしれぬ▼枝野さんによれば、東電「中枢」の撤退意向を受けて確かめたのが、まさに事故が起きている「現場」。すると第一原発所長は「まだ頑張れる」と言ってくれたそうだ。菅さんにも感謝だが、あらためて「現場」に助けられたとの思いが募る▼だから、うれしい。事故対応に当たった東電の作業員、消防隊員、自衛隊員らに、欧州で権威ある「スペイン皇太子賞」が贈られることになったという。主催団体が「英雄と呼ばれるにふさわしい」と称(たた)えたのはすべて「現場」の人々である。