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原発・エネルギー政策の抜本的な見直しは、野田政権が前政権から引き継いだ最大テーマのひとつだ。野田首相は、基本的に菅政権の方向性を踏襲する方針を明らかにしている。原発の新[記事全文]
新しい政権が発足した。懸案は山積みだが、永田町で大きな関心を呼ばぬまま、たなざらしになっている重要な課題があることを忘れないでほしい。情報公開法の改正である。4月に閣議[記事全文]
原発・エネルギー政策の抜本的な見直しは、野田政権が前政権から引き継いだ最大テーマのひとつだ。
野田首相は、基本的に菅政権の方向性を踏襲する方針を明らかにしている。原発の新設が困難だという認識を示し、老朽化などで危険性の高いものから廃炉にし、中長期的に原発への依存率を下げていく考えだ。
妥当な判断であり、歓迎する。定期検査後の再稼働についても厳格に臨むよう求めたい。
未曽有の原発事故は、「絶対必要」「絶対安全」思考に縛られた原子力行政が電力会社との癒着を生み、情報の流れを阻んだり、改革の芽を摘んだりしてきた実態を浮き彫りにした。
野田政権は、こうしたゆがみを修正し、新しいエネルギー政策への転換に政治の意思を発揮しなければならない。
問題は、どのような枠組みで改革を進めていくかだ。
エネルギー政策は従来、経済産業省の所管だ。事務局をつとめる総合資源エネルギー調査会が、中長期の電源確保などを盛り込んだエネルギー基本計画を定期的に示してきた。内閣府では原子力の専門家による原子力委員会がほぼ5年に1度、原子力政策大綱を策定している。
それぞれ、9月中にも見直しへと具体的に動き始める。
だが、どちらも原発推進を積極的に担ってきた組織だ。とりわけ経産省はエネルギー政策の立案に熟知する一方、電力会社や原発利権と絡んだ政治家や役所OBとのしがらみも強い。改革案が具体的になるほど、こうした勢力の抵抗も予想され、経産省のもとで公正な判断が下せるのか、懸念がある。
菅政権は内閣官房に新たに関係閣僚によるエネルギー・環境会議を設け、政治主導で改革を進める姿勢を示していた。
7月末にまとまった同会議の中間整理は、原発依存度の低減と分散型の電力システム構築という将来像を示したうえで、電源ごとのコストの検証や発電と送電の分離など、改革の論点を網羅している。
野田政権も、この会議をエネルギー改革に向けた最高機関として明示すべきだ。知識と意欲をもつ官僚や専門家を集めて態勢を強化し、エネルギー調査会などの既存組織はその下で改革を肉付けするものとする。
もとよりエネルギー政策の大転換は省庁の枠を超えた政治課題である。中間整理にもある通り、国民的議論を反映させることが不可欠だ。
腰を据えた野田首相の官邸主導に期待したい。
新しい政権が発足した。懸案は山積みだが、永田町で大きな関心を呼ばぬまま、たなざらしになっている重要な課題があることを忘れないでほしい。情報公開法の改正である。
4月に閣議決定された改正案は、国会で一度も議論されずに継続審議となった。震災や政局の混迷があったとはいえ、この怠慢は政治の貧しさと議員らの問題意識の欠如を物語る。
改めて言うまでもなく、政府がもつ情報の開示は民主政治を運営していくうえでの前提だ。震災復興も、税と社会保障の一体改革も、エネルギー政策の見直しも、関連する情報が市民にしっかり示され、人々が考え、話し合う土台が築かれて初めて本当のものになる。
改正案は国民の「知る権利」を明記し、現行法の「公にしない条件で任意に提供された法人などの情報は非公開とする」との規定を削るなど、開示範囲を広げた。また「情報提供」の章を設け、行政の基礎的な情報を適時に、分かりやすく、利用しやすい方法で提供することを、省庁に義務づけている。
いずれも、いまある法律の欠陥や限界を踏まえ、前に歩を進めようという内容だ。
震災と原発事故をめぐる政府の対応を思い起こしてみよう。
東京電力から寄せられたデータを含めて、情報公開は大幅に遅れ、住民の健康を危険にさらし、不安を広げ、外国の不信も招いた。透けて見えるのは、情報は政府と官僚機構、そして政権党のものだというおごりであり、国民は情報を正しく理解する能力に欠け、軽々に開示するのは危険だという、主権者を見下した発想である。
情報公開を旗印に掲げてきたはずの民主党政権においても、このありさまだ。改正法を速やかに成立させ、実施に移すことにより、政官に染みついた体質を変えていかねばならない。
ただし、改正案も満点ではない。昨夏公表されたたたき台に比べ、外交・防衛・治安情報の扱いが非公開の方向にやや後退するなど気になる点もある。
ここは国会での十分な議論が必要だ。自民党も野党を経験して、政府による情報独占の危うさを痛感しただろう。ともすれば「知る権利」に冷淡だった従来の立場から抜け出し、民主主義の深化・発展という観点からチェックしてもらいたい。
「市民が情報を手にする手段を持たぬ政治は、喜劇か悲劇か恐らくその両方をもたらす」という格言がある。私たちが求めるのは、喜劇でも悲劇でもない当たり前の民主政治である。