福島原発事故が起きて半年がたち、東京電力がようやく損害賠償に本腰を入れる。大勢の被災者が人生を台無しにされ、不安のどん底にいる。全面救済を目指して誠心誠意の対応を心掛けてほしい。
「朝起きて、家族そろって朝食を取り、子どもたちが元気に学校に行き、大人は仕事へ。ごく普通の生活を返してもらいたい」
先週、福島県の被災者らが塗炭の苦しみを東電にぶつけた。その切実な思いに、東電は真摯(しんし)に応えなくてはならない。
東電は週明けから賠償金の支払い手続きを受け付ける。全体で四十万〜五十万件を見込み、六千五百人体制で応じる。事務的な金勘定に終始するのではなく、被災者としっかり向き合ってほしい。
被災者が損害額を請求し、東電が査定して賠償額を示す。被災者が納得すれば支払う段取りだ。まず八月末までの損害を一括処理する。九月以降に生じた損害は三カ月ごとにまとめて穴埋めする。迅速かつ十分な救済を望みたい。
仕事を失い、やりくりが厳しい人も多い。育児や介護、病気などで不意の出費を迫られる不安も消えない。支払い手続きの区切りを一カ月程度に短くできないか。
異常事態のただ中で損害の証明書類を確保できていない人もいる。避難費用の領収書、過去の給与明細や確定申告書などだ。被災者が立証するには負担が大きい。東電が丁寧に事情を聴き、事実確認に動くべきだ。
農林漁業や観光業などの風評被害も賠償の対象だが、損害額の算定方法は検討中という。原発事故の影響と地震や津波の影響を仕分けるためだ。被災者の得心がいく線引きができるのか気掛かりだ。
東電の賠償の仕組みは、国の原子力損害賠償紛争審査会が八月に損害の目安としてまとめた中間指針に忠実につくられている。
自主的な避難や放射能の除染の費用などは賠償の対象外だ。慰謝料の支払いも避難区域や屋内退避区域の人に限られる。国も東電も被害の実態に目を凝らし、賠償の在り方を不断に見直すべきだ。
被災者と東電は折り合えなくても、法律家らでつくる国の原子力損害賠償紛争解決センターの仲介を仰いで決着させたい。裁判では救済が遅れる。
東電は膨大な賠償資金を捻出せねばならないが、電気料金への安易な転嫁は許されない。資産売却や人件費圧縮など自らの身を切る努力が先決だ。それが多くの幸せを踏みにじった責任の取り方だ。
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