HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19879 Content-Type: text/html ETag: "671d3b-483c-cce9e4c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Tue, 06 Sep 2011 00:21:42 GMT Date: Tue, 06 Sep 2011 00:21:37 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年9月6日(火)付

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 紀伊山地の険しい起伏を縫う熊野古道には、ぬかるみを防ぐ石畳が残る。霊場めぐりの人波と、有数の多雨地帯を物語る遺構である。年に3千ミリ、ざっと東京の倍が降る。〈霧荒(あら)し山雨(さんう)太しと熊野越え〉名和佑介▼秋雨に煙る参詣(さんけい)路や木立は、厳かな趣であろう。むろん、そぼ降る情景である。年間雨量の過半が数日で果てては、趣も何もない。世界遺産の山岳聖地を、台風12号による泥流が走った▼熊野三社の一つ、熊野那智大社がある那智勝浦町にも、深い爪痕が刻まれた。落差133メートルの那智の滝、マグロ漁や温泉で知られる和歌山の観光地である。那智は「難地」に由来するとも聞くが、山あいの集落は見る影もない▼つらいのは、妻子を流された寺本真一町長(58)だ。役場に泊まり込んだ4日未明、急を知らせる妻(51)の電話は無残に切れた。町観光協会に勤める長女早希(さき)さん(24)は、夜が明ければ結納の運びだった。町長はこらえて陣頭に立つ▼全国の死者不明者はすでに約90人。台風がのろのろと北上したため、南の湿った空気が何日も紀伊半島をなめ、記録的な雨になった。これほどの犠牲者は2004年の23号以来となる。その3日後には中越地震が襲った▼2万の命を奪った大地震と津波から半年、またも地異と張り合うように天変が牙をむいた。被害規模は違えど、ふいに明日を絶たれた人々の悲痛に変わりはない。「想定外」に泣いた災害列島には、想像を超える雨も降る。いま一度、防災の備えを点検したい。

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