野田内閣が発足した。政治家という「ドジョウ」は働いてこそ意味がある。厳しい「ねじれ国会」を乗り切り、国民のための政策を実現する責任は重い。
「ドジョウ内閣」という呼び方が定着しつつある。野田佳彦首相が民主党代表選で、詩人相田みつをさんの作品にちなみ、自らを派手な金魚ではなく、地味なドジョウに例えたことがきっかけだ。
これに平野博文同党国対委員長が「私はドジョウがすみよい泥になる」と応じ、藤村修官房長官も閣僚名簿発表にあたり「ドジョウのように泥にまみれて仕事をして政治を前進させたい」と語った。
◆震災・原発で継続性
ドジョウは今や高級食材のようだが、菅直人前首相とは対照的な野田氏の低姿勢は、今のところ共感を呼んでいるようだ。
その「ドジョウ内閣」が最優先に取り組むべき仕事は言うまでもなく東日本大震災の復旧・復興、福島第一原発事故の収束である。
平野達男復興対策兼防災担当相と細野豪志原発事故担当相が再任され、震災復興と原発事故対応の継続性重視がうかがえる。両氏には被災者の立場に立ち、復旧・復興、原発事故収束と除染、被災者への支援と補償を着実かつ速やかに実現してほしい。
閣僚の布陣を見ると、代表選で海江田万里前経済産業相を推した小沢一郎元代表のグループから二人が入閣した。党人事ではすでに小沢氏に近い輿石東参院議員会長を幹事長に起用している。
民主党内ではこれまで、先鋭化した「脱小沢」「親小沢」の対立が政策実現の妨げになっており、野田首相は党役員と閣僚に小沢系を取り込むことで、党内融和を図ろうとしたのだろう。
小沢氏は「いい構成ではないか。相当、みんなに気を使っている」と語ったという。首相の狙いは外れてはいないようだ。
◆協調で政治を前に
ただ、党内融和は政策を実現するための手段にすぎない。挙党態勢で結集したエネルギーは政策実現の一点に注がねばならない。
首相は一日、谷垣禎一自民党総裁、山口那津男公明党代表と個別に会談し、震災の復旧・復興、円高対応など総合経済対策、税制改革の三点について実務者協議に入ることを提案した。
ねじれ国会で法律を成立させ、政策を実現するには与野党協力が不可欠だ。実務者協議が不毛な対立に終止符を打ち、政治を前進させる契機になるなら歓迎する。
自公両党も参加を真剣に検討してはどうか。ねじれ国会では野党も国政運営の責任を共有する。ただ解散を迫るだけでは無意味だ。
ドジョウ内閣が震災復興、原発事故収束とともに、どんな政策の実現を目指すのかはより重要だ。
財務相に被災地・宮城5区選出の安住淳氏、国家戦略担当相に大蔵省出身の古川元久氏が起用された。古川氏は経済財政政策と社会保障・税一体改革も担当する。
首相は財務相当時から、二〇一〇年代半ばまでの消費税率引き上げに取り組んでおり、この布陣も復興増税や消費税増税を確実にするためのシフトなのだろう。
ただ、首相は就任会見で「徹底的に無駄を削減し、行政を刷新する」とも語り、今回、蓮舫氏を行政刷新担当相に「再登用」した。
蓮舫氏と官僚側との緊迫したやりとりが注目された事業仕分けは財源捻出効果に乏しく、民主党は結局、〇九年衆院選マニフェストの見直しを迫られた。蓮舫氏にとって再入閣は再挑戦の機会だ。
増大する社会保障費や財政規律の確保のため、いずれ消費税増税が避けられないとしても、野放図な歳出構造を放置しては国民の理解は得られまい。
蓮舫氏にはいま一度、マニフェストで国民と契約した税金の無駄遣い撲滅とともに、これまで見送られてきた公務員制度の抜本改革や総人件費の二割削減にも果敢に取り組んでほしい。
首相は今月二十一日からの国連総会出席のために訪米し、オバマ米大統領との会談も予定される。
最大の懸案とされた米軍普天間飛行場の沖縄「県内移設」が前進せず、日米関係の停滞が指摘されてきた。首相は政権交代を機に、県内移設に固執しない思い切った打開策検討を提案したらどうか。困難な作業にともに取り組めば関係は確実に「深化」する。
◆小渕内閣と類似?
ねじれ国会と低姿勢は、野田首相と小渕恵三元首相との類似点でもある。小渕内閣は低空飛行の出発だったが、小沢氏が率いる自由党や公明党と連立することで実績を積み、政権を浮揚させた。
野田首相も党内をまとめ、粘り強い説得で野党の協力を得られれば、小渕内閣に続く「二匹目のドジョウ」を釣れるかもしれない。小沢氏が同じくカギを握ることが気掛かりではあるが。
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