新聞やテレビが、ドジョウ、ドジョウと騒ぐので、無性に食べたくなり、同僚を誘って安居酒屋で柳川鍋を注文した。骨ごと煮えた熱々のをほお張ると、夏の疲れが吹き飛ぶような気がした▼小学校卒業と同時に働き始めた作家の故池波正太郎さんは、給料をもらうようになると、東京・深川の老舗のどじょう料理屋に通ったとエッセーに書いている▼「はじめは、どぜうなど、うまいともおもわなかったけれども、底の浅い鉄鍋を前にして、薬味の葱(ねぎ)を泥鰌(どじょう)の上へ盛り、煮えあがるかあがらないかというときに、引きあげて食べる。そういうことをしていると、何か一人前の大人になったようで、いい気分だったのである」▼自らを泥くさいドジョウと重ねる野田佳彦首相の内閣がきのう、発足した。各グループに目配りした党内融和人事の中にも、経済産業相に再生エネルギーに熱心な鉢呂吉雄氏を充てるなど、おやっと思わせる人事もあった▼どじょう鍋にも使われるゴボウは、ドジョウの泥くささを消し、うまみを増す。地味、無名とやゆされる女房役の藤村修官房長官に期待されるのは、そんな役回りなのだろう▼江戸時代から、庶民の貴重なタンパク源だったドジョウは今、キロ当たりの仕入れ値は“高級魚”並みだそうだ。泥にまみれて汗をかく。政権が掲げている愚直さが、見せかけで終わらぬように…。