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半世紀余り前に岩手で作られた「津波対策いろはかるた」にはなかなか教えられる。下手な思案よりまず退避、上げ潮にまさる引き潮の威力、初めて安心警戒解除――などと並べ、最後の〈ん〉は「運より準備」と締めくくられる▼その準備のお手本を、東日本大震災で見せたのが岩手県の釜石東中学と鵜住居(うのすまい)小学校だったろう。津波は隣り合って立つ校舎の3階まで来た。だが校内にいた児童生徒600人近くが無事に逃げ切った▼中学生と小学生は合流して、1キロ離れた高台へ走ったそうだ。波が迫るのを見ると、先生の指示を待たずにさらに上へ駆けた。その10分後に校舎は波にのまれたという。助かったのは「幸運」ではない。日ごろの訓練のたまものだった▼いま教育の場では、災害から身を守るために「自ら考える力」に着目していると、昨日の記事にあった。岩手の宮古小学校では判断力や協力心を養うために「全校遊び」を始めたそうだ。「自分や友達の命を守る力は普段の遊びや学習の積み上げ」という校長先生の言が頼もしい▼今年の防災週間(5日まで)は、緊張感のある訓練が増えていると聞く。実際の役に立たないことを例えて「畳の上の水練」と言う。とかく畳水練のように見られた形骸化が改まるのも、震災の尊い教訓ゆえだろう▼今日あたりからは台風が案じられる。突然襲う地震が背後からの辻斬(つじぎ)りなら、台風は前から迫る袈裟懸(けさが)けの一太刀だろうか。地異にも天変にも「運より準備」の戒めが効く。