万葉の時代から、秋の虫の鳴き声は親しまれてきた。<〓(こおろぎ)のころころひとり笑ひかな>(一茶)。セミの声の勢いが鈍ったなと思うと、小さい奏者の調べが、秋の夜長を演出する季節になっていた▼きょうから九月。猛暑だった昨年よりは気温が低かったとはいえ、企業や家庭が節電を重ね、八月の「電力危機」を乗り切った。今月二十二日までの予定だった東京電力管内の電力使用制限令も前倒しで解除される▼東電の供給量に占める使用率が90%を超えたのは一日だけ。もともとの電力需要の推計が「どんぶり勘定」で大きくげたをはかせていた。いいかげんな推計で15%もの削減を強いた責任を問わなくてはならない▼産業界などからは、早くも冬場や来夏の電力不足を心配する声が上がっている。しかし、いくら不安をあおられても、原発に依存せずに夏を乗り越えた事実は、国民の大きな自信になるはずだ▼「火力の稼働を八六%強にすれば、水力と併せて、原子力発電分なくしても問題はなく、原子力発電分だけ無駄を抱えていることにもなる」と安全性論議を超えた経済性の視点から、脱原発を主張する専門家もいる(日本大国際関係学部円居総一教授 『原発に頼らなくても日本は成長できる』)▼地震列島の上に、原発を建てる危険なギャンブルはもうやめにしたい。「防災の日」のきょうあらためて思う。