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野田新首相は、新しい日本の顔である。難問だらけの内政とともに、日本外交を速やかに立て直す重責を担う。菅首相の退陣表明から3カ月、外交は停滞し続けている。今月前半の予定だ[記事全文]
深刻な財政難のなかで、東日本大震災からの復興をどう描くか。閉塞(へいそく)感が強まる一方の日本経済を活性化できるか。野田新政権は、経済財政分野でも難しい課題に向き合う。[記事全文]
野田新首相は、新しい日本の顔である。難問だらけの内政とともに、日本外交を速やかに立て直す重責を担う。
菅首相の退陣表明から3カ月、外交は停滞し続けている。今月前半の予定だった首相の訪米は延期された。尖閣問題で冷え込んだ日中関係を改善する出発点になる首相の訪中や、シャトル外交による韓国大統領の訪日の日程も決まらない。
幸い、今月下旬の国連総会を皮切りに、米ロが初参加する東アジアサミット、G20、アジア太平洋経済協力会議(APEC)と、11月まで各国が集う機会が目白押しだ。首脳外交を展開する好機である。
その前提として、新首相は外交・安全保障に関する包括的な考え方を、できるだけ早く国民に示す必要がある。
先進各国の経済の混迷と新興国の台頭で、国際社会の力関係は流動化している。アラブ諸国の民主化や、国際テロなどからも目が離せない。日本の針路をどう定め、どんな国をめざすのか。いまこそ、大きな構想と戦略が求められている。
先の民主党代表選で、外交問題はほとんど素通りだった。しかも野田氏は、財務相としてG7などには出たが、どちらかといえば外交の門外漢で、手腕はまったくの未知数である。
その一方で、「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」という見解に象徴される歴史認識と、中国を刺激する物言いが話題になっている。最近も、中国の軍事力増強や海洋進出に懸念を示し、「ナショナリズムをあおるために、ちょっかいを出される可能性もある」と語っていた。
中韓両国のメディアでは、すでに「タカ派」「強硬派」といった言葉が踊っている。
しかし、野田氏もいたずらに摩擦の種をまくのは本意ではあるまい。少なくとも、靖国神社参拝について「首相在任中はしない」と明言し、メッセージを発するのが賢明だ。
来年は米ロ中韓など、世界の主要国で大統領選挙が行われたり、首脳が交代したりする。各国とも指導者は国内世論を強く意識せざるを得ず、内向き志向になることが懸念される。それだけ、外交は難しさを増す。
鳩山政権での普天間問題、菅政権での尖閣問題など、民主党は外交の不手際で信用を失ってきた。そして「回転扉」「メリーゴーラウンド」と揶揄(やゆ)されるほどの短命首相続きだ。
「言うべきことは、遠慮なく言い合う」という野田氏には、思慮深い言動で首脳間の信頼関係を築いてほしい。
深刻な財政難のなかで、東日本大震災からの復興をどう描くか。閉塞(へいそく)感が強まる一方の日本経済を活性化できるか。野田新政権は、経済財政分野でも難しい課題に向き合う。
まずは復興の具体策を盛り込む第3次補正予算案の編成である。通常の国債と区別した「復興債」を発行し、その返済財源として臨時増税を行う方針だ。政府税制調査会が近く増税の選択肢をまとめる。
一方、高齢化で増え続ける社会保障費をまかなうため、2010年代半ばまでに消費税率を段階的に5%幅引き上げる方針も決まっている。
負担増が重なることをできるだけ避け、今後の復興需要を見込めば、復興増税は来年度から実施するのが合理的だろう。民主党代表選で臨時増税の必要性を訴えた野田氏が勝った後も、党内には慎重論が根強い。経済状況を見極めつつ、最後は野田氏が決断しなければならない。
同時に、日本経済のパイを大きくし、雇用や税収を増やす経済活性化策が不可欠だ。
菅政権が昨年6月にまとめた新成長戦略をはじめ、いったいいくつの「戦略」が打ち出されてきたことか。その多くは目先の予算獲得を意識した省庁からの寄せ集めだった。
ここは、従来の枠を超えた取り組みが必要だ。特に、新たな蓄電機器や通信機能を取り込んだ次世代電力網であるスマートグリッドの整備など、エネルギー分野は電力改革によって大きな成長が期待できる。
こうした日本の将来像と被災地の復興とを重ね合わせ、規制を大胆に緩和した特区制度も使いながら、具体的なプロジェクトを打ち出してはどうか。
たとえば、深刻な原発事故に見舞われた福島県に再生可能エネルギーに関する国際的な拠点を設ける。放射線医学や関連医療分野でも、同県の復興案に沿って産官学が連携した態勢作りが考えられるだろう。
復興事業などへの民間資金の活用や行政のムダを削る作業も欠かせない。民主党政調会長になった前原元国交相は先の代表選で、PFI(民間資金を使った社会資本整備)方式で仙台空港を整備する構想を披露した。野田新首相は行政刷新担当相を専任に戻し、行政改革に力を入れる考えを示した。問われているのは構想や人事ではなく、具体策の決定と実行である。
環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の検討など、対外経済政策も先送りできない。スピード感を持って政策を進めなければならない。