岩手県産米のプレゼント当選者発表で、不適切なテロップを流した東海テレビが検証番組を放映した。プロ意識のなさや危機管理の甘さを自省しおわびした。放送の責任をきちんと自覚してほしい。
「怒りを通り越して、あきれてしまった。冗談ではすまない」。岩手県の米農家の人の悲痛な叫びだ。その通りだろう。丹精込めて育てた米を、「怪しいお米、セシウムさん」などと、公共の電波で報じられたのだから。廃業や転業を口にする農家もあるという。
東海テレビには電話やメールなど一万七千件の抗議が殺到した。風評被害を防ぐべき報道機関がふざけ心で風評被害を拡大し、被災地の人たちの心と生活を大きく傷つけた。ことの重大性を深く胸に刻み、大いに反省してほしい。
検証番組によると、テロップを作った制作会社の男性は「放送されるとは思わなかった。思いつきでふざけもあった」と話したという。公共放送に携わる者としてプロ意識や倫理観に欠けている。スタッフが男性に二度、修正依頼をしたというが、男性は「ハイ、ハイ」と言うだけで放送まで修正されず、上司もきちんとテロップの中身を確認しなかった。危機管理態勢の甘さとスタッフの間のコミュニケーション不足も深刻だ。
問題の背景には、報道機関としての使命感や厳しさの欠如がある。報じられる人たちの人権や気持ちについての細やかな配慮も不足していたようだ。
民放全体の問題として「面白くなければテレビではない」という路線の行きすぎもあるだろう。ふざけや笑いは、文化の一面でもある。しかし、人の心を傷つけるような黒い笑いはどうだろう。芸人とは名ばかりのタレントの内輪話や、「いじる」と称する仲間いじめで視聴率を稼ぐバラエティー番組の全盛で、出演者だけでなく制作側にも浮ついた気持ちやふざけ心がまん延していないか。
民放のドキュメンタリーには、地道な取材で新たな事実を掘り起こし、人の心を打った秀作も数多い。この不祥事をテレビ全体への失望にしてはならない。
番組の打ち切りや役員報酬カットなど東海テレビは一定の処分をした。だが、心から被災地の人たちにおわびする気持ちが大切で、形だけではいけない。岩手県でも検証番組を放映すべきだった。検証で明らかにした問題点を改善し今後の放送を通じて、被災者や視聴者の信頼を回復してほしい。
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