民主党新代表に野田佳彦財務相が選出され、きょう首相に指名される。政治に対する国民の目は厳しい。政策実現に背水の陣で取り組まねばならない。
「ノーサイドにしましょう。もう」。当選直後に語った野田氏のこの言葉が、今回の代表選の性格を雄弁に物語っていた。
残念ながら代表選は今回も、より深い政策論争より、強制起訴で党員資格停止中の小沢一郎元代表の処遇をどうするかが主要争点になってしまった。
小沢氏が推す海江田万里経済産業相は、決選投票で「非小沢包囲網」に敗れたと言ってもいい。
◆内紛に終止符打て
小沢氏をめぐる党内抗争が政策実現のエネルギーをそぐ現状に終止符を打てるのか。それが民主党が引き続き政権政党たる資格を有するかどうかの分岐点となる。
菅直人首相は「ノーサイド」と言いながら「脱小沢」を政権浮揚に使い、無用な混乱を招いた。
歴史的な政権交代から二年。国民との契約である二〇〇九年衆院選マニフェストを実現できず、民主党政権が国民の期待に応えているとは、残念ながら言い難い。
政治の使命は言うまでもなく国民のための政策実現だ。課題は山積している。党内で争うエネルギーがあれば政策実現に生かせるよう、野田氏は指導力を発揮し、挙党態勢づくりに努めるべきだ。
まず、東日本大震災からの復旧・復興、福島第一原発事故の収束が急務である。
すでに復興基本法が民主、自民、公明三党合意を経て成立しており、これを着実に実行すると同時に、その裏付けとなる一一年度第三次補正予算編成と、その財源論議を急がねばならない。
原子炉の冷温停止に向けて全力を尽くすことはもちろん、放射能汚染を取り除く除染でも、国の責任をより明確にすべきである。
◆「脱原発」引き継げ
菅首相が提起した「脱原発依存」をめぐっては、野田氏は必ずしも賛同していないようだ。
しかし、今回の原発事故で明らかになったように、いったん事故が起きれば、影響は甚大だ。産業を支える安価なエネルギーとはとても言えない。
原発の稼働継続を前提とした原子力安全庁の設置にとどまらず、「原発に依存しない社会」の実現に向けてエネルギー政策を思い切って転換し、自然エネルギーの開発を促すべきだ。それが原発事故後に初めて選ばれる首相に課せられた使命ではないか。
これまで財務相という立場もあってか、消費税をはじめとする増税路線に前のめりになっていることが気掛かりである。
一一年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は約八百九十一兆円で主要先進国では最悪水準だ。
財政を立て直すため、いずれ消費税率引き上げが避けられないとしても、野放図な歳出構造を温存したままの増税は、国民の理解が到底得られるものではない。
野田氏は政見表明で「引き続き行政刷新担当相を専任大臣として行政改革を進めるべきだ」と述べた。また公務員の定数、人件費の削減も打ち出している。
マニフェストに掲げた税金の無駄遣い根絶にいま一度果敢に挑戦すべきである。これは実現せねばならない国民との契約だ。
同時に野田氏は国会議員定数削減も表明した。議員自らが身を切る姿勢を見せるにはよいが、少数政党切り捨てにならないよう「一票の格差」是正を含む選挙制度見直しの中で検討すべきだ。むしろ約三百二十億円の政党助成金を先行削減したらどうか。
ねじれ国会では、政府・与党が法律を成立させて政策を実行に移すには、野党側の協力を得ることが不可欠だ。野田氏は菅首相の失敗から学び、与野党間の信頼構築に努めなければならない。
野田氏は自民党の谷垣禎一総裁との会談で「野党に信頼されるよう努力していきたい」と述べた。重要なのは政党のメンツよりも国民の幸せだ。丁寧な上にも丁寧な国会運営で、国民のための法律を一つでも多く成立させてほしい。
谷垣氏も、菅首相の下では協力できないと言っていたのだから、野田氏に代わった今、協力を惜しむべきではない。ねじれ下の国会運営は与野党の共同責任だ。
◆暫定政権では困る
野田氏の代表任期は菅氏の残り任期である来年九月までだが、当初から暫定気分では困る。
安倍晋三元首相以降、五年間で六人目の首相となる。「一年首相」の頻出は政策遂行はもちろん外交でも大きなマイナスだ。
党規約通りに代表選を行うことは当然だが、野田氏は再任されて本格政権となれるよう、死力を尽くすべきだ。さもないと民主党のみならず、日本政治にも後がないと覚悟すべきである。
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