意外な異名、といってよかろう。おどりこ。あのひげや、体色、体形、どこをとっても「踊り子」には結びつかない▼昨日、誕生した野田新首相が我が身を例えたドジョウのことである。ドジョウは、鰓(えら)呼吸のほかに、腸呼吸という技を持つ。水中の溶存酸素量が少なくなるとすかさず水面に出て空気を吸い、二酸化炭素は、お尻からプクプクと泡にして出す▼ものの本によると、その水面に出ては没する様子が踊っているようにみえるから「踊り子」だとか。生きるのに必死の行動を優雅なダンスと見られては、ドジョウの方は心外かもしれない▼「泥くさい政治をやる」という意味のドジョウもそうだが、政治手腕は知らず、野田さんの例え話のセンスは恐らく、永田町でもトップクラス。例えば二〇〇三年の民主党と自由党の合併の際、自由党を率いていた小沢一郎氏を評した言葉は傑作だ。「モーニング娘。の中に天童よしみが入ってきたようなもの」▼いわば反小沢勢力の結集によって宰相の座を得た野田さんだが、党運営の要の幹事長には、その小沢さんにごく近い輿石参院議員会長をすえるという。新首相を待つ難題は多いが、まずは党内での小沢さんとの距離感がやっかいだ▼やがて息苦しくなるのは目に見えている。それこそドジョウよろしく、腸呼吸ぐらいの技がないと、生きのびられないかもしれない。