福島第一原発事故で広がった放射能汚染を取り除く国の方針がやっと決まった。事故の収束と併せ、除染の成否は住民の帰郷を左右する重要なカギになる。国は責任を自覚して全力を挙げてほしい。
「除染でどこまで放射線量が下がるのか。本当に人が住めるようになるのか」「防護服を着て住むわけにはいかない。家の周りをもっと除染してほしい」
先だって原発周辺三キロ圏内の故郷を久しぶりに訪ねた住民たちは、切実な思いを口にした。国はその不安や焦りに誠実に応えなくてはならない。
予想されたとはいえ、福島県内の汚染はかなり深刻だ。二十キロ圏内の警戒区域には、一年間に浴びる放射線量が避難の目安である二〇ミリシーベルトを超えると推定される地点が多く確かめられた。五〇〇ミリシーベルトに達した場所さえある。
国によれば、二〇ミリシーベルトを上回る地域は国が除染に当たる。それ以下の地域は地元の市町村や住民の手を借りる。広範囲に及ぶ大掛かりな取り組みになる。膨大な人手と時間がかかるのは必至だ。
国と地元が役割分担するにしても、除染作業が効果を上げるよう国が責任を負うべきだ。技術提供や人材養成、専門家派遣などの手厚い支援が欠かせない。除染の進み具合をにらみつつ住民の帰還の工程表をつくることも大切だ。
国の試算だと、年間の被ばく線量が二〇〇ミリシーベルトとみられる場所では、除染をしないと住民が帰宅できるまでに二十年以上かかる恐れがあるという。二十七日に福島県入りした菅直人首相は、除染しても避難が長引く地域が残るとして陳謝した。
国は汚染の激しい一部地域への立ち入り禁止措置の継続をすでに決めている。帰還の難しい住民の土地の借り上げや住宅の提供を検討している。
だが、事故収束と除染作業への全力投球が先ではないか。警戒区域の見直しは、原子炉を冷温停止させて放射能の封じ込めに成功してからの段取りになっているはずだ。人生設計に苦悩を深める住民への配慮が足りない。
一番気掛かりなのは、除染作業で出る汚染された土壌やがれきの扱いだ。肝心の処分先が決まっておらず、除染作業や住民の帰還に支障を来しかねない。
国は廃棄物を一時的に保管しておく施設を地元に設けたい考えだ。福島県は最終的には運び出すよう強く求めている。最終処分場探しを急がなければならない。
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