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何千と産み放しにするか、少数の面倒をとことん見るか。カエルの産卵には両派があるらしい。中米の熱帯雨林に棲(す)む赤いイチゴヤドクガエルは後者の好例だ。漢字にすれば苺矢毒蛙と恐ろしげだが、これが泣かせる▼落葉に産んだ数粒がオタマジャクシになると、雌は一匹ずつ背負って木に登る。目指すは地上10メートル、葉の間にできた水たまり。それぞれを安全な個室に運んだ母は、子が巣立つまで隠れ家を回り、餌の無精卵を産み落としていく▼そんな子煩悩の一部始終を、近日公開の映画「ライフ」で観(み)た。「命をつなぐ」をテーマに、動物たちの生への執念を英BBCが6年かけて収めた。とりわけ打たれたのは子への愛だ▼産卵したミズダコは何も食べずに半年間、ひたすら卵に新鮮な水を送る。泳ぎ出る子を見届けての最期、幸せそうだ。天敵のいない氷原で出産したアザラシ。ブリザードの中、母は風上で子の盾になり、氷雪にまみれる。本能という乾いた言葉では足りない、美しき献身である▼「いかなる場所でも、子どもを育てる上で大切なのは親の知恵と情熱でしょう」。案内役、松本幸四郎さんの語りが胸に残った。わが同類には知恵と情熱に欠ける親もいて、虐待事件が後を絶たない▼〈リボンつけしままに眠れる幼子を目守(まも)りつつをり泪(なみだ)ぐむまで〉大野誠夫(のぶお)。目元にあふれたのは、この子を命がけで守るという気負いだろう。どんな親にも本来、悲しいくらい純な愛が宿る。カエルやタコに教わることではない。