民主党代表選がスタートしました。候補者は菅直人政権の現職と元閣僚ばかりです。発言がぶれる候補者も。次の政権もやっぱり同じなのでしょうか。
閉塞(へいそく)感に包まれた菅政権がようやく退陣を決め、新しい政権が発足するというのに、率直に言って期待感が高まりません。なぜか。
海江田万里氏は経済産業相、野田佳彦氏は財務相、鹿野道彦氏は農相、前原誠司氏は菅内閣の前外相、馬淵澄夫氏は同じく前国土交通相。菅内閣に深く関わった責任者ばかりなのです。
政権の交代ではありますが、これでは首相を取り換えるだけで「内閣改造」と見間違えるほど。
◆菅路線に決別するのか
そもそも今回の代表選に至る経過を振り返ると、どうも筋が通っていない面があります。
菅首相が六月に事実上の退陣表明に追い込まれたのは、小沢一郎元代表らのグループが造反姿勢を強めて国会で内閣不信任案が可決・成立しそうになったからでした。小沢氏らの造反で退陣が決まっていれば、次の政権はまったく新しい顔触れになり、政策路線も一新されていたでしょう。
ところが造反は不発に終わる。首相は退陣するものの、小沢グループは独自候補の擁立を見送り、現職閣僚の海江田氏を支援しています。結果的に、従来の菅政権と対決してきた候補はだれもいない状況になりました。
五人の候補者はいずれも先の内閣不信任案に反対し、菅政権を支持しています。わずか二カ月後に自ら政権を目指すなら、旧来の路線を継承するのか決別するのか。決別するなら、菅政権のどこに問題があったと考えているのか。
さらに、自分自身が閣僚あるいは元閣僚として「菅政権の失敗」にどう責任を感じているのか。そこをまず、明らかにしてもらわなければなりません。
◆「ぶれる」候補者の言動
ところが記者会見での発言を聞いていると、どうも責任を感じているふうがない。焦点である増税問題に限っても、野田氏を除く四人は復興財源を増税で賄う方針に強く反対しています。
菅政権は復興財源を所得税や法人税など基幹税の増税で賄うと決めているのですから、少なくとも現職閣僚の三人は増税を訴えなければつじつまが合いません。
社会保障財源に充てる消費税引き上げについて、政府と民主党は二〇一一年度中に法案を国会に提出する方針を決めましたが、海江田氏は代表任期中に法案を出す考えはないと明言しました。
野田氏もぶれています。復興増税について「景気が悪くなればできない」と軌道修正しただけでなく、最初から熱心に訴えていた大連立についても「実務者協議を重ねたうえで視野に入ってくる」とトーンダウンしました。
言ったことを守らない。手のひらを返したように、すぐ前言を覆す。鳩山由紀夫前政権も菅政権も、そんな事例が相次ぎました。次の政権もあしき伝統を引き継ぐのでしょうか。
候補者が同じ顔触れというだけでなく、言動が首尾一貫していないという点でも、次の政権が「菅政権Ver・(バージョン)2」にならないかと懸念します。
本来なら、菅政権をどう総括しているのか。なにが失敗の原因で克服するためになにが必要なのか。そんな基本問題について、国民が十分、候補者たちの考えを聞く機会が必要でした。
ところが、民主党は告示から投開票まで実質わずか二日間という超スピード日程を決めてしまいました。これでは政策論争が盛り上がるはずもなく、支持者集めだけで精いっぱいです。いくら数の勝負とはいえ、あまりに国民不在ではありませんか。
永田町の論理むき出しで選挙に勝ったとしても、国民との対話を欠いた政権が強い支持を集めるとは考えにくい。そもそも菅政権に続いて、次も衆院解散・総選挙を経ずにできた政権になります。
前原氏については、別の問題もあります。三月に京都市在住の在日韓国人から二十五万円の政治献金を受けていた問題が発覚しましたが、記者会見で新たに外国人の三人一社から献金を受けていた事実を自ら公表しました。
外国人と知って受けた献金であれば、議員辞職しなければならない重大問題です。献金問題で外相を辞任しているのに、なぜ今度は首相を目指すのでしょうか。
◆「政治の貧困」が深まる
東日本大震災と福島第一原発事故は終わっていません。多くの被災者が苦しい生活を余儀なくされ、政治に希望を求めています。首相を目指す候補者たちが被災者に向けて語る言葉はあまりに短く、紋切り型に終わっています。「政治の貧困」が深まる。そんな予感が当たりませんように。
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