北朝鮮の金正日総書記が九年ぶりにロシアを訪問し、核実験を凍結する可能性を示唆した。柔軟姿勢を見せて周辺国からの支援を獲得し、経済再建を進めたいという危機感がにじむ。
金総書記は専用列車で東シベリアのウランウデを訪れ、メドベージェフ大統領と首脳会談をした。
ロシア大統領府報道官によると、金総書記は核問題をめぐる六カ国協議に無条件で復帰すると表明し、さらに同協議を通じて「核兵器とミサイルの製造および実験を一時停止する用意がある」と明らかにした。
しかし、北朝鮮メディアは六カ国協議再開は報じたが、核やミサイルの凍結にはひと言も触れていない。金総書記の本音は「核実験を中止するかどうかは今後の交渉次第」だと解釈できよう。
米国、韓国と日本は北朝鮮に対し、六カ国協議の前にウラン濃縮活動を中止し、国際原子力機関(IAEA)査察官を復帰させるよう求めている。
米国と韓国の高官はそれぞれ七月に北朝鮮側と対話をした。近いうちにまた対話をして、金総書記発言の真意を確かめ、併せて核放棄に向けた具体的な行動をとるよう迫るべきだ。
注目されるのはロ朝両国が経済協力を深めると合意したことだ。ロシアから北朝鮮を経由して韓国に至る天然ガスのパイプラインの建設計画を進めると確認した。この計画自体はまだ「夢物語」の段階だが、ロ朝間では鉄道連結や、ロシアが北朝鮮羅津港の一部の埠頭(ふとう)を借り受けるなど進行中の事業もある。
北朝鮮は食料やエネルギー、生活必需品まで多くを中国に依存している。金総書記が昨年から計三回、訪中したのもその表れだ。一方で、ロシアに接近して支援要請先を増やし、中国一辺倒の現状を改めたいという思いがある。
ロシアは朝鮮半島、東アジアでの存在感を高めて中国をけん制したいと考えており、ロ朝首脳会談では双方の思惑が一致した。
北朝鮮は昨年、韓国に対する軍事挑発を重ね、国際社会の制裁はさらに厳しくなった。金正恩氏を後継者とする体制づくりを急ぎ、軍事強硬路線を取りながら各国からの支援も引き出そうという「二兎(にと)を追う」危うい戦略を続けている。
北朝鮮の狙いは何か、硬軟どちらで臨んでくるのか。周辺国は真意を見極め、対話と抑止の両面を駆使した対応が必要だ。
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