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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
毎年いまごろ、「夏休み最後の週末」がニュースになる。じりじり照る太陽、陰影濃い日々は、それだけでどこか非日常のにおいがある。今年は雨がちだが、晩夏の光は胸に一抹の感傷を引く▼〈泉の底に一本の匙(さじ)夏了(おわ)る〉飯島晴子。森のキャンプ場に湧く泉だろうか。にぎやかな声はもう消え、誰かが忘れていったスプーンが水底にひとつ。呼びさまされる光景が、烈(はげ)しかった季節の終わりを告げる▼さて、この人も、烈しかった季節を過ぎて、後ろ姿に秋風が吹く。菅首相がきのう、正式に辞任を表明した。短命だったが、「最後の粘り」もあって、在任は小泉後の5人のうちでは最も長い。良くも悪くも、戦後最悪の非常時の宰相として名を残そう▼ここに来て、「すっかり脂っ気が抜けた」が周囲の評らしい。あれは国民新党の亀井さんだったか、夏前に「(菅さんは)秋風の吹くころお遍路に旅立てる」と言っていた。見通しは、良いところをついていた▼菅さんが政治の「泉」に残した一本の匙は、「脱原発依存」だろう。これで四面楚歌(しめんそか)は極まったが、共感する人も多かった。水底から拾い上げる後継首相はいようか。水を濁してごまかすなら、離れる支持も多かろう▼もう一つお手柄を挙げれば、与野党乱戦の「菅おろし」を通じて、政治の貧相を改めて周知させたことか。何とも皮肉な「功」を残して夏とともに去る。かくて初秋の風物詩と揶揄(やゆ)された首相交代が、2年ぶりに復活する。地位の軽さはいよいよ極まる。