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無血クーデターで42年前に出来た政権を倒すのに、リビアでおびただしい血が流れた。「中東の狂犬」と呼ばれたカダフィ大佐は、弾圧と徹底した抗戦で犠牲を増やし続けた。いま独裁者は追いつめられ、新たな時代が開かれつつある▼42年前、カダフィ氏は英雄だった。しかし、「どんな英雄も最後は鼻につく人物になる」の格言どおりの道をたどる。鼻につくどころか、拷問あり処刑ありの圧政は民衆から恐れられた。豊かな石油で得た富も、ほしいままに使ってきた▼その政治的信条を述べた「緑の書」は、議会制民主主義への批判を繰り広げる。いわく「51%の得票者が他の49%を押さえ込むことこそ独裁だ」。あるいは「史上最悪の独裁制でさえ議会を通じて出現した」。これはナチス政権のことだろうか▼それを方便に、憲法も議会も選挙もなく、自身には公的な肩書がない異形(いぎょう)の統治を続けてきた。つまりはノーチェック、御心(みこころ)のままにである。だが今、「全能」だったその首に1億3千万円の賞金が懸かる▼「アラブの春」の民主化は、チュニジアに始まりエジプト政権も倒した。挟まれる形でリビアも続いたが、前途はとりわけ多難視される。民主政治の基礎となる仕組みや経験、その一切がこの国にはない▼独裁の重しがとれた後の混乱は史上に多い。人々の利害や思惑、欲望が詰まるパンドラの箱の扱いは容易ではない。多くの血で購(あがな)うリビアの春に、打算抜きの国際支援が要ろう。希望を殺す失敗のないように。