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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
手術をささえてくれた手の温(ぬく)もりに感謝します。50代の女性のそんな一文が、何年か前の声欄にあった。目に大けがをしての手術中、病院のスタッフがずっと手を握り続けてくれたそうだ▼「私が握ったのは血の通った人の手だった……もう片方の手で優しくさすってくれた」――。「手」を語って印象深かった投書を、かまくら春秋社から頂戴(ちょうだい)した季刊誌『詩とファンタジー』の特集を読んで思い浮かべた。あの、「手のひらを太陽に」の歌が誕生して今年で50年になるという▼漫画家やなせたかしさんの詞に、いずみたくさんの曲。ひらがなコンビがつくり、宮城まり子さんが歌った。軽快な前奏に続く〈ぼくらはみんな生きている……〉は大勢の耳に宿っていよう。筆者など、小学校の校内放送を懐かしく思い出す▼実は自分が一番元気のなかった時に作った歌だと、やなせさんが回想している。長編コミックに押されて仕事が急減していた。深夜の仕事場でふと懐中電灯で手を照らすと、血の色が透けて見えた。そのとき歌詞が浮かんできたと▼「アンパンマンの作者」で通る前は、「手のひらを太陽に」のやなせさんと紹介されることが多かったそうだ。絵も歌も子どもたちを陽気にさせ、元気を呼ぶ。かつて小さかった大人も心が跳ねる▼歌われて半世紀、日本は戦後で一番元気のないときだろうか。〈手のひらを太陽にすかしてみれば まっかに流れるぼくの血潮……〉。血の通う手と手のつながりが今ほど大事なときもない。