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政府が、海外への原発輸出の推進を当面、継続していく姿勢を打ち出した。今国会では日本・ヨルダン間の原子力協定も審議されている。世界では、原油の高騰や温暖化対策を背景に、新[記事全文]
リビア情勢が急展開した。カダフィ政権が抑えていた首都トリポリに反政府勢力が攻勢をかけ、大部分を制圧した。トリポリからの映像では、人々が通りでカダフィ氏のポスターを引き裂き、「解放」を唱えて小[記事全文]
政府が、海外への原発輸出の推進を当面、継続していく姿勢を打ち出した。今国会では日本・ヨルダン間の原子力協定も審議されている。
世界では、原油の高騰や温暖化対策を背景に、新興国を中心に原発の導入が加速している。民主党政権は新成長戦略の柱として、ここに目をつけた。インフラ輸出の目玉に原発をすえ、首相自ら相手国へのセールスに力を入れてきた。
だが、福島第一原発の事故を機に状況は一変した。菅政権は新成長戦略見直しに向けた指針で「原発依存度の低減」を閣議決定した。国内の新増設も白紙に戻す方針で、定期検査が終わった原発の再稼働もメドが立っていない。
史上最大級の事故を起こし、原発のあり方が問われている時に、海外には国が先頭に立って原発を売り込む。これでは筋が通らない。そもそも原発事故が収束すらしていない現状で、政府にそんな余裕はないはずだ。
政府と原発メーカー、電力会社が一体となってセールスに乗り出したのは、原発を初めて導入する国では施設を建設するだけでなく、運転や保守、必要な人材育成や法規制などについても面倒を見てほしいとの要望があったからだ。
しかし、原発事故によって、運転や保守を担う電力会社に多くの問題があることがあらわになった。安全管理や法規制のずさんさも露呈した。
すでに東京電力は、原発輸出からの完全撤退を表明した。他の電力会社も原子力事業の根幹からの見直しを迫られている。主要選手を欠いた「日の丸チーム」に、どこまで勝ち目があるだろうか。
このまま他国と競争すれば、事故の際の賠償や他の分野での援助など、日本に不利な条件を押しつけられる恐れもある。
国内の原発メーカー3社には、もともと十分に国際競争力がある。官民一体で制約を受けるより、独自の技術力やネットワークで最強チームを組み、受注増に挑む。そのほうが、理にかなっている。
すでに協力協定を結んだベトナムや、交渉継続中のトルコなどに対しては、相手の希望を確認しつつ、日本国内での課題や事情をきちんと説明する。少なくとも政府が旗振り役をつとめるのは避けるべきだ。
事故の原因究明と真剣な反省に立ち、安全規制の強化や事故に備えた避難態勢、賠償の枠組みづくりなどに経験を生かす。それこそ、日本が国際社会にできる最良の貢献のはずだ。
リビア情勢が急展開した。カダフィ政権が抑えていた首都トリポリに反政府勢力が攻勢をかけ、大部分を制圧した。トリポリからの映像では、人々が通りでカダフィ氏のポスターを引き裂き、「解放」を唱えて小躍りするなど、「革命達成」の歓喜が広がっている。
カダフィ氏自身は姿を隠しており、なお予断を許さない。しかし、2人の息子は反政府勢力に拘束されている。42年にわたるカダフィ体制の支配は実質的に崩れたと見ていいだろう。
リビアの民主化デモは、今春のチュニジアやエジプトでの民衆革命の達成の後に始まった。6カ月にわたり抵抗を続けてきた反体制勢力の粘り強さに敬意を表したい。
リビアでの動きは「アラブの春」の大きな進展である。政府による民衆への弾圧が続くシリアや、混乱が続くイエメンの動きを加速させよう。アラブ・中東では、ほかにも非民主的な政治や体制がはびこっており、民主化を求める動きへの追い風となるだろう。
リビア情勢はこの数カ月内戦状態になり、安保理決議に基づく軍事介入が始まった。英仏軍主導の空爆では民間地区への誤爆もあり、限界が表面化していた。今回、リビア民衆の主体的な動きで首都攻勢が成功したことで、内戦が長期化して国際社会が泥沼に入ることが避けられたともいえる。人道目的の軍事介入における反省としたい。
旧体制の決定的な崩壊が進むなかで、「カダフィ後」のリビアの再建、とくに民主化の実現に向けて、国際社会はすぐに動き始めなければならない。新生リビアの建設は、とてつもない新たな困難を伴うだろう。
カダフィ体制は部族を中心とした伝統社会の上に、社会主義直接民主制を唱える「ジャマヒリヤ体制」だった。憲法も、国家元首も、議会もないという特殊な制度であり、結果的には、無冠のカダフィ氏が部族を束ねる部族長のような権力と権威を独占した。
これが崩れた後、民主主義のルールも制度も存在しない。まさにゼロからの出発となる。
反体制派の中でも、カダフィ体制から離反した旧政権幹部や部族勢力が影響力を持つ。新しい時代を開くためには、憲法制定や選挙実施など民主化プロセスを一つずつ実現して、政治や社会の仕組みを作っていかねばならない。
旧体制を打破して終わりではなく、これからがリビアの試練の始まりである。日本を含む国際社会の支援が求められる。