『平家物語』延慶本には、ある寺の落慶法要を行うに当たって、その導師を選ぶ話がある▼指名された天台座主が固辞すると、各所の名僧が、ぜひにもその役をと名乗り出る。その数、実に十三人。それぞれが「吾(われ)こそ天下一の名僧よ」と自己アピールして、選ぶ方も困惑。結局は、くじで決めることになる▼さて、事実上の新首相選びとなる民主党代表選も、それには及ばないが、やはり「吾こそ」という人が多数いるようだ。既に出馬表明したり、意欲を見せているのは六人。さらに前原前外相が熟慮中▼それにしても、一国を率いるリーダー選びにしては盛り上がらぬ。確かに「吾こそ」でなく、国民多数が「彼こそ」と望むような本命は不在。それに、誰が新首相になっても、この国の抱える難題が急に霧消するはずがないのを国民も承知で、どのみち混迷が続くだけ、と見ているのかもしれない▼ただ、菅さんが打ち出した「脱原発」に熱心な人は見当たらぬ一方、大ボス・小沢元党代表の復権を説く人は何人か。世論調査から見れば、どちらも国民の望む「ポスト菅」の姿とは違うはずだが▼導師選びのくじは実は十四枚あったが、十三人はいずれもはずれ。「御導師たるべし」と書かれた一枚は残ってしまった、というのがあの話の続きである。もしそれがくじなら、「新首相たるべし」の一枚も、あるいは…。