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天声人語

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2011年8月20日(土)付

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 ゆく夏、朝な夕なに美しい顔を眺めると心が安らぐ。いえ艶(つや)っぽい話ではありません。朝顔と夕顔を育てたら、酷暑にめげず花を咲かせている。朝の凜(りん)に夜の幽と言うべきか。一朝一夜のはかなさに、花がまとう空気も引き締まる▼朝顔は藍色、夕顔はむろん白である。朝顔は夕べを待たずにしおれ、夕顔は朝の光の中でしぼんでいく。二交代勤務といえば無粋になる。絶頂に凋落(ちょうらく)が潜む無常。そのたたずまいが、なかなかいい▼双方を詠んだ句が蕪村にある。〈朝がほや一輪深き淵(ふち)のいろ〉。この絶品の前では、数多(あまた)の朝顔の句は影が薄いという人もいる。〈ゆふがほや竹焼く寺のうすけぶり〉は、どこか楚々(そそ)とした野趣が漂ってくる▼二つの花は名は似ているが違い、朝顔はヒルガオ科に、夕顔はウリ科に属する。俳句でも、夕顔は夏の季語だが、朝顔は真夏の花のようで秋の季語になる。昔の朝顔は今の桔梗(ききょう)を言ったらしい。それが遠因ともいうが、思えば涼しげな咲き姿は、秋の先駆けにふさわしくもある▼拙宅の花に戻れば、開花の観察をまだ果たせないでいる。かつて落合恵子さんが小紙で「夕顔の時間」と題して書いていた。「なんと深い白さ」と愛(め)でながら、どうやってほころぶのか、その「時」に立ち会いたいと。この夏の朝と夕の、わが宿題でもある▼きのうは各地で、土砂降りの雨が、猛暑でほてった空気を手荒に冷ましていった。晩夏から初秋へ。少しけだるい季節には、朝な夕なの凜と幽に知らず励まされる。

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