菅直人首相の後継を選ぶ民主党代表選で自民、公明両党との「大連立」が争点に浮上した。推進派はねじれ国会を乗り切る策にしたいのだろうが、政治停滞を打破する「解」にはとてもなり得ない。
大連立構想は福田内閣当時の二〇〇七年十月以降、たびたび浮上してきた。現内閣でも今年三月と六月に再燃したが、いずれも実現していない。今回を含めて共通するのは、与党が参院で過半数に達しないねじれ状況にあることだ。
大連立構想が再浮上したきっかけは、代表選に立候補する意向を固めた野田佳彦財務相が「救国内閣をつくるためには野党の皆さんに頭を下げ、正面玄関からお願いするところから始めなければならない。連立でなければ政治が前進しない」と述べたことだ。
これを岡田克也幹事長や前原誠司前外相らが後押しする一方、野田氏の対立候補と目される馬淵澄夫元国土交通相らが慎重姿勢を示したことから、大連立をめぐる論争が活発になってきた。
野田氏に大連立を呼び掛けられた自民党の谷垣禎一総裁は現段階では慎重だが、当初は野田氏を「思い付きで政策を打ち上げる方ではない」と評価していた。野田氏が消費税増税に前向きで、自民党とは親和性があるからだろう。
野田氏が大連立を呼び掛けた背景に、将来の消費税増税を容易にしようという「増税大連立」の意図があるのなら見過ごせない。
そもそも連立には外交・安全保障、財政、エネルギーなど基本政策の一致が不可欠だ。民主、自民の二大政党間に政策の違いがなくなるのなら、衆院選での政権選択の意味はなくなる。
民主党が自民党との大連立を機に、国民との契約であるマニフェストを根本的に見直すとしたら、下野するか、衆院解散で国民に信を問うのが筋ではないか。
この国会では与野党の協力で一一年度第二次補正予算が成立し、再生エネルギー法案や公債特例法案も成立の見通しが立った。
東日本大震災からの復興や原発事故対応、税と社会保障の一体改革など課題は山積するが、少数意見軽視の恐れがある大連立でなくても、政治を前進させることは十分可能だ。
民主党執行部は二十八日にも代表選を行う方針だという。いかにも性急だが、日本の首相を選ぶ責任ある選挙だ。限られた時間の中、せめて震災後の日本の針路を示す骨太な政策論争を望みたい。
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