三月十一日の大地震では、東京もかなり揺れた。エッセイストの石田千さんは、少し落ち着くと、なぜか米を炊いていたという▼炊き上がるとおむすびを作った。無事の確認かたがた自転車で町内の友人や知人のところを回り、それを配った。<おむすびを食べてと渡して、いらないという人はいなかった。…お米さえあれば、なんとかなる。そう口にする人も、たくさんいた>と随筆に書いている(『望星』七月号)▼多分、空腹というわけではなかったのだろう。でも、不安な時、おむすびを渡され、ホッとした、落ち着いたという感じはよく分かる。何せ「瑞穂(みずほ)の国」の民だ。米は無論、主食ではあるけれど、それだけではない、日本人にとって何か特別な存在のようにも思う▼今年も新米のシーズンが近づいているが、福島の原発事故で、放射能汚染の不安が影を落としている。<お米さえあれば>のお米だけに、心配だ。農水省は十七都県に収穫前後の放射性セシウム検査を求めたが、その他の多くの県でも自主調査が実施されるようだ▼福島県内には汚染レベルが高く、政府が既に作付けを禁じた農地もある。<生きかはり死にかはりして打つ田かな>村上鬼城。代々、手塩にかけてきた田んぼを汚された農家の無念、いかばかりか▼この上は、どこの新米も例外なく、「安全」の検査結果が出るよう、切に祈る。