HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19699 Content-Type: text/html ETag: "cc0d03-4788-cf0e0ac0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 15 Aug 2011 01:21:42 GMT Date: Mon, 15 Aug 2011 01:21:37 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年8月14日(日)付

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 作家の田辺聖子さん(83)は、玉音放送を一家で聴いた。「降伏したみたいなこと、いうてはる」と父。「フシが、なさけなさそうですなあ」と母が頷(うなず)く。大人の脱力ぶりに呆(あき)れ、17歳の軍国少女は一人、無念を日記にぶつけた(回想『欲しがりません勝つまでは』)▼66年前のきょう、日本はポツダム宣言受諾を連合国側に伝えた。深夜に録音された終戦の詔書が、翌15日昼、NHKラジオで流される。大衆が初めて聴く陛下の声だった。漢語の多用と雑音で、すぐには解せぬ人も多かった▼野坂昭如さん(80)はそれでも、終わったと感じた。もう空襲はないと思うだけで、体の芯がとろけるような安堵(あんど)を覚えたという。終戦の日、どこで何を思ったか、百人に百の話があった▼各人に語るべきものがある大震災も、時代を画す共通体験に違いない。すべきことが山とあるのは敗戦時と同じだが、私たちに高揚はない。虚脱の暇(いとま)もない。津波、原発にとどまらず、日本は複合的な不全の中にある▼ひと声で動く世でもなし、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、不全の理由を一つずつ取り除いていくほかない。より生きやすい国を目ざして、まずは荒れ放題の政治と財政から手をつけたい▼NHK放送博物館の「玉音盤」は窒素ガスの中で眠る。今に残る音源は、傷む前のレコード盤から占領軍が複製したものだ。米国は「多くの命を救った放送」に価値を認めた。生かされた人々は驚異の復興を成し遂げる。もう一度できないはずがない。

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