トヨタ自動車が二〇一二年の世界生産を過去最高の約八百九十万台にするという。背景には、優れた生産技術・基盤がある。日本企業はそれぞれ培った技術力を、明日を切り開く力にできるはずだ。
一一年上半期の世界販売台数は米ゼネラル・モーターズ(GM)が、東日本大震災の影響を受けたトヨタを抜いて首位になった。トヨタは、独フォルクスワーゲン(VW)にも抜かれ三位。通年でもGMが首位の可能性が高い。
トヨタの一一年の世界生産見込みは七百十五万台。計画では、一年間で百七十五万台増産し、これまで最高の〇七年の八百五十三万台を上回る。グループのダイハツ工業と日野自動車を含めれば一千万台も見えてくる。震災による減産からの巻き返しとは別次元の世界戦略の「旗印」。日ごろ保守的な予想をするトヨタが、大胆な計画を震災からの復興も間もない時期に打ち出したことは、部品メーカーなど関連企業も驚かせた。
重視する地域は北米に加え、今や世界一の市場に成長した中国やインドなど新興国。計画の地域別内訳は、北米百六十八万台、欧州六十万台、中国九十五万台、東南アジア・台湾百四十六万台などとなっている。北米は多いが、〇七年と比べると四万台増。対して中国やアジアは各五十万台増と、増え方は著しい。トヨタには、これまで北米市場に頼りすぎ、中国やインドで出遅れたとの反省があり生産・販売拡大を急ぐ考えだ。高い目標設定には、部品メーカーなどに生産に対応する態勢づくりを促す狙いもうかがわれる。
一方、国内生産は一一年より七十万台多い三百五十万台。一ドル=八〇円を上回る超円高で輸出産業に逆風が強まる中、増やすのは国内生産基盤が重要との認識と、雇用を守るというトヨタの強いメッセージでもある。
一一年四〜六月期決算発表の席上、韓国勢など海外のライバル社との競争を念頭に、トヨタの伊地知隆彦専務役員は「圧倒的な技術力で勝ち抜く」と語った。労務費などコストでは負けが見えているが、国内の生産技術・基盤は「世界ではまだ頭一つ抜けている」との自負がなせる発言だ。
日本企業の持つ技術の高さには定評がある。富士通のスーパーコンピューター「京」は計算速度世界一に選ばれた。困難な時代、トヨタに限らず、企業は技術力に活路を見いだしてほしい。それは商品の魅力にもつながるはずだ。
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