逼迫(ひっぱく)する電力需給がお盆休み前のピークを乗り越えた。東京電力には東北電力に融通する余裕さえある。国民の節電努力にすがる一方で、情報公開に二の足を踏む電力業界の不誠実が際立つ。
「最大使用電力が五千万キロワットを超える日は少ないと見ている」
東京電力福島第一原発の事故から三カ月。実はその段階で、東電内部では夏場の電力不足は十分に乗り切れると楽観的な見通しを立てていた。
それは東北電への二百万キロワットの電力融通でも、はっきり裏づけられた。東日本大震災で女川原発などが稼働停止に追い込まれた東北電は、新潟、福島県で豪雨にも見舞われ、二十九の水力発電所が損傷し綱渡りの供給が続いている。
被災した東北三県への送電が途絶えぬよう融通し合うのは当然であり、西日本でも四国電力が関西電力に手を差し伸べている。しかし、東電は計画停電まで実施し、盛んに電力不足のキャンペーンを繰り広げてきた。それなのに電力は余っているではないか。多くの人々はそんな疑念を抱くだろう。
東電の現在の最大供給能力は約五千五百万キロワット。六千万キロワット以上の能力を備えていた昨夏を下回っているのに、なぜ余力があるのか。工場や商店、家庭などの愚直とさえいえる節電努力によるものだ。
東電管内の電力需要は大震災を境に、前年に比べ一千万キロワット近くも減った。中国電力一社分、原発七〜八基に相当するとてつもない規模の節電効果であり、それが東北電の窮状も救っている。
にもかかわらず情報公開には消極的で、東北電が水力発電所の事故を公表したのは一週間後。東電も電力不足は乗り切れると判断しながら、原発事故でも見られた隠蔽(いんぺい)体質をなお引きずっている。
昨夏、東電が六千万キロワットのピークを記録した際、原発の割合は20%未満にとどまった。広く公表していない統計を表に出せば、太陽光などの自然エネルギーでも原発を肩代わりできると受け取られ、脱原発の世論を勢いづける。そんな計算が働いているのだろう。
既に政府はポスト福島のエネルギー政策の見直しに入った。原油や天然ガス、原子力の発電コスト、どこまで自然エネルギーを増やせるかなどのデータは、国民にとっても将来の日本のエネルギーを考えるうえで欠かせない情報だ。
節電で不自由を強いながら情報公開に腰を引いていては、電力業界の信頼はさらに低下する。
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