HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19687 Content-Type: text/html ETag: "d1a562-477c-9c6e2100" Cache-Control: max-age=5 Expires: Fri, 12 Aug 2011 03:21:23 GMT Date: Fri, 12 Aug 2011 03:21:18 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年8月12日(金)付

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 古代ギリシャ七賢人の一人タレスといえば、万物の根源は水だと説いた哲学者だ。そのタレスだが、古代の五輪を観戦していて、今でいう熱中症で死んだという説がある。後世の詩人の一節も残っているそうだ▼〈太陽ゼウスよ、昔おん身は、スタディオンより、競技を見物していたる賢者タレースを天上へ連れ去り給いぬ……〉(野尻抱影〈ほうえい〉『星三百六十五夜』)。すべては水から生じて水に還(かえ)る。そのような自然観を語った人が「脱水」で落命したとすれば皮肉である▼あちらの太陽も暑そうだが、東洋の炎帝も負けていない。しばらく前の小欄で「赫々(かっかく)たる太陽も蝉(せみ)の声もなしではどこか寂しい」と書いた。挑発したわけではなかったが全国で猛暑が続く。この暴君、手加減というものを知らないらしい▼慣れは恐ろしく、いつしか猛暑日と聞いても驚かなくなってしまった。だが頭は慣れても、体は温度を正直に受け止める。油断せず、定石通りの水分補給で身を守りたい。ふだんは敵視しがちな塩分も適量が欠かせない▼東京の声欄に梅干しジュースの思い出があった。梅干しをつぶして砂糖をかけ、冷たい井戸水を注ぐ。冷蔵庫も扇風機もない時代、炎天下を自転車で来る郵便屋さんに母親が出していたそうだ。知恵と思いやりで夏をしのいできた▼賢人タレスは、何が一番難しいかと聞かれて「自分を知ること」と答えたという。自分は大丈夫という油断は、熱中症の場合も落とし穴らしい。臆病なぐらいが、ちょうどいい。

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