暴力団と開業医が絡み、養子縁組を偽装した臓器売買事件は、臓器移植法のもとで定着し始めた移植医療の信頼を大きく傷つけた。再発を防ぐには、「親族確認」を厳格に行うよう規制が求められる。
この事件では、慢性腎不全を患っていた東京都内の男性開業医が暴力団員に現金を払い、その仲介で埼玉県出身の男性(21)と養子縁組を偽装し、わずか一カ月後の二〇一〇年七月に宇和島徳洲会病院(愛媛県)で生体腎移植を受けた。
これ以前にも別の暴力団員の仲介で四十代の男性と養子縁組を偽装し、東京都板橋区内の病院で移植を受けようとしたが、金銭の上乗せ要求をめぐるトラブルから実現しなかった。
移植は通常の医療と異なり第三者が関与するため、その実施には透明性と高い倫理性が求められる。開業医も一時、日本臓器移植ネットワークへ移植希望者として登録していたが、順番がなかなか回ってこないため、金に飽かして犯行に及んだようだ。
移植が行われた宇和島徳洲会病院では、患者が知人女性を親族と偽って生体腎移植のドナーに仕立て、多額の金品を渡していたことが〇六年に発覚し、初の臓器移植法違反に問われた経緯がある。
今回、同じ舞台で同じような事件が起きた。病院の倫理委員会は移植の是非を審議したというが、親族確認の作業が相変わらず不徹底との批判は避けられない。
だが、開業医が最初に移植を受けようとした板橋区内の病院でも倫理委員会が一時、移植を認めていたことからすると問題は倫理委のレベルだけにとどまらない。
〇六年の事件後、日本移植学会の倫理指針や臓器移植法の運用指針は改定され、生体移植は親族間に原則限定し、臓器提供の際、戸籍謄本や健康保険証など「公的証明証」による確認を義務付けた。
とはいえ要件を満たした書類で養子縁組を偽装し、さらに口裏を合わせれば、それを医療機関が見抜くのは容易ではないだろう。
親族であることの確認は個々の医療機関に任せるのではなく、厚生労働省や移植ネットなど公的機関が責任をもって行うのが望ましい。養子縁組後、緊急の場合を除き一定年数経ないと生体移植を認めないよう規制すべきだ。
臓器移植法は脳死患者からの臓器提供の透明性確保に重点が置かれたため、患者と臓器提供者双方の合意で実施される生体移植についてはほとんど規制していない。長期的にはその見直しも必要だ。
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