夕方、土の中から出てきたばかりのセミの幼虫を見つけた。樹皮にしがみつく小さな命は力強い足取りでのぼってゆく。羽化する時、天敵に狙われにくい場所を本能的に知っているのか。たどりついた葉の周りには、多くの抜け殻があった▼セミが鳴きだすのが全国的に遅かった今夏、暦に追いつくように蝉(せみ)時雨(しぐれ)がにぎやかだ。きのうは福島市でも三六度を超す猛暑日になった。生を謳歌(おうか)する声楽家たちの大合唱に、暑さはいよいよ募る▼長年、地中で暮らしたセミは羽化すると、十日間ほどで生を終える。光の当たる場所に出ると、すぐに死んでしまう短命な印象は、ここ何代かの日本のトップの姿とどこか重なる▼夏休み返上の国会は、菅直人首相が退陣条件とした法案が成立する環境が整い、八月中の辞任が現実味を帯びてきた。野党の法案引き延ばしを想定したさらなる延命の野望はついえそうだ▼不可解なのは民主党執行部の姿勢だ。子ども手当などの「看板」を下ろすなど野党に譲歩に次ぐ譲歩。いくら首相に早く辞めてほしくても、党の理念までかなぐり捨てたら、政党として「抜け殻」と同じだ▼代表選は、脱原発の方向性やエネルギー政策、増税が争点になりそうだ。後継に名前が挙がっている閣僚には、財務省や経済産業省が背後霊のようにはりついている。「脱官僚支配」は真夏の夜の夢だったのか。