HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19685 Content-Type: text/html ETag: "6be44e-477a-26c093c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Tue, 09 Aug 2011 22:21:11 GMT Date: Tue, 09 Aug 2011 22:21:06 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年8月10日(水)付

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 横浜にある「あすか」という俳句結社から以前、稲作にまつわる季語ばかり集めた一冊を頂戴(ちょうだい)した。ずいぶんと多い。春の「種選び」に始まり、夏の「田草取り」をへて実りの秋の「稲干す」など、あれやこれやで200におよぶ。稲作とともにあった日本の歴史を言葉の数が物語る▼その年の初めての稲刈りを「鎌はじめ」と言う。だが喜びの収穫を前に、東日本の稲作農家の不安は募る。もし基準以上の放射性物質が検出されれば、手塩にかけた新米は出荷できなくなってしまう▼「米」の字を分解したとおり、米作りには八十八回、手がかかるという。しかし丹精込めてなお、人力、人知の及ばないことは多い。人事を尽くして、あとは太陽、雨、風など天地の恵みにすがるほかない▼そこへ放射能という人災である。5月の小欄で、被災地で辛うじて難をのがれた田んぼの植え付けを書いた。「青々と育ち、やがて黄金に波打つ稲は、きっと人々を励ますことだろう」と。負けない努力が落胆に終わっては、心底やりきれない▼「瑞穂(みずほ)の国」とは稲がゆたかに実る国。日本人にとって米の重みは別格だ。肉牛、野菜の痛手はもとより大きい。そのうえ米となれば農業には大打撃となろう▼きのうは千葉県が、一部の収穫前の調査結果を発表した。幸いにシロだったものの、緊張はなお続く。収穫した新米のことを今年米(ことしまい)とも呼ぶ。〈炊き上げて死者に生者に今年米〉江崎義人。祈る思いで刈られる稲。どうか無事であってほしい。

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