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2011年8月8日(月)付

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稲わら汚染牛―農水省の失策のツケ

放射性セシウムに汚染された稲わらを牛が食べ、その肉が流通した問題で、農林水産省が対策をまとめた。汚染稲わらを食べさせた17道県の農家から出荷され、流通した約3500頭の[記事全文]

防衛白書―中国への警戒と課題と

民主党政権になって2度目の防衛白書が公表された。東日本大震災の救援活動の特集を組み、自衛隊員の活動ぶりを詳しく伝えるなど、国内外の安全保障上の課題や動きを幅広く紹介して[記事全文]

稲わら汚染牛―農水省の失策のツケ

 放射性セシウムに汚染された稲わらを牛が食べ、その肉が流通した問題で、農林水産省が対策をまとめた。

 汚染稲わらを食べさせた17道県の農家から出荷され、流通した約3500頭の在庫はすべて業界団体を通じて買い上げる。

 全頭検査や、農家ごとに出荷時に1頭を調べる全戸検査を行う県では、農家に対して飼育1頭につき5万円を支給して資金繰りを助ける。出荷停止が指示された4県では保管経費を立て替え、出荷が遅れた牛の県による買い上げも支援する。総額は860億円の見込みだ。

 先月26日に発表した緊急対策では、流通分は国の暫定基準を超えた分だけを買い上げ、1頭5万円の支給は前年同月の出荷頭数を基準にしていた。

 資金支援も、業界団体が金融機関から借り入れて利子分を補給する仕組みだったが、今回、国が直接出すことにした。

 業界団体は東京電力に賠償を請求し、農家も後に5万円を返すことになっており、国はあくまで立て替え払いの立場ではある。とはいえ、他の農林水産物と比べ、相当に手厚い。

 牛には個体識別番号があり、追跡調査と検査で基準を超えた分だけを選別できる。流通分をすべて処分することまで必要だったか。衆参両院の農林水産委員会が国の全面支援を求める決議をしたことが影響したようだが、対象の拡大でかえって牛肉全般に対する消費者の不安を高めないか、心配だ。

 「安全なものしか市場に出さない」という原則が崩れ、対応が後手に回った場合のツケが、なんと大きいことか。指摘しなければならないのは、農林水産省が犯した失策である。

 原発事故から8日後、農水省は「牧草を与える場合は、事故発生前に刈り取り・保管したものだけを使う」よう、東北と関東の各県に通知した。しかし、稲わらには触れていなかった。一部の県は個別に稲わらについて指導したが、農家全体には行き渡らなかった。

 農水省は「稲わらは稲刈り後の昨年秋に屋内に運び込まれ、保管されていると考えていた」と言う。しかし、実際には田んぼに放置し、翌年春に取り込む農家が少なくなかった。

 「現場を知らない行政」の罪は深い。農水省はなぜこんな事態を招いたのか、きちんと検証するべきだ。

 他の食べ物でも漏れはないか。特に主食のコメが焦点だ。早場米の収穫に合わせ、農水省は2段階で検査する方針を決めた。もう失敗は許されない。

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防衛白書―中国への警戒と課題と

 民主党政権になって2度目の防衛白書が公表された。

 東日本大震災の救援活動の特集を組み、自衛隊員の活動ぶりを詳しく伝えるなど、国内外の安全保障上の課題や動きを幅広く紹介している。

 なかでも、昨年末の防衛計画の大綱の見直しを受け、政府が今後、どのような政策を推し進めるのかの説明に重点を置いている。

 新大綱はとりわけ、中国の動向を意識し、自衛隊の機動性や即応性を高めるとともに、部隊を南方にシフトする南西諸島防衛重視の方針を打ち出した。これを反映して、白書も中国について最も紙幅を費やしている。

 国連平和維持活動(PKO)や海賊対処などの取り組みは評価している。一方で人権問題などを例に、中国の対外姿勢を初めて「高圧的とも指摘される」「今後の方向性に不安を抱かせる」などと表現した。

 また、日本近海で頻発している艦船や航空機による摩擦の事例を詳しく列挙しつつ、南シナ海での領有権問題にも言及し、中国軍の動向を「国際社会にとっての懸念事項」と昨年に続き強い調子で指摘している。

 軍事挑発を重ねる北朝鮮、哨戒活動を強めるロシアと比べても、警戒感は格段に強い。

 もちろん中国の活発な海洋進出の動向は看過しがたい。

 しかし、だからといって警戒心をあおるだけでいいのだろうか。こういう時だからこそ、お互いに信頼を醸成していくことこそが大切なはずだ。

 白書には、各国との防衛交流や協力の解説もあるが、中国については通り一遍の経過説明にとどまっている。万一のトラブルをどのように避けるのか、その具体策も提示されていない。

 昨年9月に尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件をきっかけに中断していた日中間の交流は、6月の防衛相会談で再開し、7月には次官級会談もあった。

 しかし、両国の長年の懸案になっている、海上での艦艇同士のトラブルを防ぐための最小限の連絡体制さえ、いまだに構築できるメドが立たない。

 菅直人首相は昨年、日中首脳会談で「戦略的互恵関係」の推進を確認した。ところが、白書では、これでもかとばかりに対中警戒感が強調されている。なんとも外交と軍事の方針の不一致が目立つのだ。

 予想されるトラブルを回避し、問題が起きたらすぐに話し合える環境を整えておくことは急務だ。そんな政権の問題意識や意欲が、白書から伝わらないのが残念だ。

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