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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
ヨーロッパの北部では蝉(せみ)が珍しく、鳴き声を知らない人も多いそうだ。だからイソップ物語の「アリとセミ」も、かの地では「アリとキリギリス」に役者が変わる。かつてドイツから来日した人が、蝉の鳴きしきる木立を見て「あの鳴く木がほしい」と言った。そんな話も聞いたことがある▼日本の夏に欠かせない蝉しぐれが、ようやく東京でも佳境に入ってきた。今年は梅雨が明けても音無しだった。各地で遅れ気味だったらしく、地震や放射能の影響を案じる声がネットにあふれていた▼加えて関東や東北は、いっときの猛暑から一転、梅雨寒のような日が続いた。節電には良かったが、赫々(かっかく)たる太陽も蝉の声もなしではどこか寂しい。〈蝉鳴いてなにやらホッとする異常〉。川柳欄の一句に同感の方は多かろう▼虫ざんまいの夏休みを懐かしむ元少年もおられようか。虫にも序列があって、東海地方のわが故郷では蝉ならクマゼミが第一だった。アブラゼミを佃煮(つくだに)にするほど捕っても、クマ一匹の栄光に遠く及ばなかった▼希少なのは生息の北限に近かったからだろうが、近年は異変が起きている。北へ北へと勢力を広げて、北海道で見つかった報告もあるそうだ。温暖化の影響とも、他の要因とも言われる。クマゼミは何に反応しているのだろう▼近くの公園を歩くと蝉の穴がぽこぽこと空いている。幾年も地下にもぐって忍の一字、やっと這(は)い出た短い命の大合唱は、雄が雌を呼ぶ恋の賛歌だ。「いつもの夏」の尊さに気づく。